面食らって裸の肩をなぜていた手が止まった。

「…距離があるだけだよ、単に。何もできないし」
「それがやさしいとおもう」
「オレ、やさしくないよ」
「躍起になって否定すんなよ」

眠そうな目を眇め、照れてんのか、と訊いてくる。

これにはちょっと言葉を飲み込んだ。そんなわけがない。図星じゃないけど言葉に詰まる。あきれ返ったみたいな視線に、自分がどれだけ情けない顔をしたのかと不安になる。居心地悪くて、もそもそと藁でも口の中で噛むように言葉を吐いた。

「……やさしくなんかないよ」
「そうだな」
「……」

そうあっさり肯定されると、なんだか悔しいものもある。

「やさしくしてるつもりなんかないんだろ。だからすげえ、」

あんたがいい。
なんだかろくでなしを甘やかす顔だった。しょうがない奴を見る顔で、笑った顔にがつんと心臓をハンマーで叩かれて、目まいがした。サスケの口端は下がっていて、黙って口を噤んでいると不機嫌な顔に見える。だからその分、薄い唇にただよう笑みは、あわくほのかににじんだ。

「……おまえね」

やさしいのはどっちだ。右目をすこし汗ばんだ左手で覆って、眼球の丸みを感じた。瞼の裏が熱をもつ。意味なく深呼吸。口数を増やせとはいったが、こんな殺し文句を教えたおぼえはない。さっきまであんな情けない顔してたくせに。思い出させてやろうか。ああくそ。予想もしなかった。冗談じゃない。

「……俺って、ひょっとして情けない?」
「自覚あんのか」
「……やっぱり」

情けない返事に右手をゆっくり剥がされて、光が映る。笑って覗き込む目に右目だけで笑いかえした。自分といた時間で、いない時間で、こんな顔で笑う子になったと土の下の人々に教えてあげたい。大事なものを大事だといえる子だ。誰かの傷を撫でられる子だ。お礼も言いたい。

まったくかなわない、かなわなくたっていい。信じられない、しあわせが自分の外側で体温を持ってると、抱きしめたあと、どうしたらいいのかわからない。信じられない。自分もこの子も人殺しだ、人殺しなのに、生きものだからずるくて嬉しくてしょうがない。

あと何回、サスケとキスをできるかはわからない。
だけど十年後もしあわせで泣きたい。
となりがこの子ならもっといい。
笑ってたらずっといい。



「掌に花片」/カカシサスケ

ぐあ、夢見すぎた、すみません!
















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