!>ナル←サスです。
思ったより優しくないことに口を滑らせた。だが慰めが当たり前にあると思っているなんて、今思えばあまりに甘ったれていた。
「んだよ、おまえホントにオレんこと好きなんかよ」
サスケは瞬きをゆっくりして、伏目に花びらまみれのアスファルトをつまらなさそうに見ている。この唇がナルトのことを好きだといったなんて嘘みたいだ。息を吸い込んだナルトが、続けて口を開こうとしたとたん、サスケは無造作にナルトを支えていた腕を外した。よろついたナルトはとっさに塀に寄りかかるが、膝のネジを引き抜かれたみたいにアルコールで足は心もとなくてあっさりと転んだ。
ざわつかせた夜風に花びらが落ちてくる。
「……ってェ、何すんだよ」
ぱんとひどく乾いた音が響いて、ずれた前髪が目にかかる。ぐるりと回った視界と熱をもってビリビリする頬に軽く叩かれたのだと知った。驚いているともう一発だ。
「で、いて、ちょ、サス」
続けざま容赦なく前髪をつかまれ、後ろの塀にぶつけるようにされる。ゴン、と頭を塀に打ち付け、さすがのナルトも頭を両腕で振り回して庇った。
「なにすんだよ、いってえな。いきなりなんだってばよ!」
反論したとたん、サスケはおもむろにナルトの前髪から手を話して踵を返す。髪の毛を掴んでいた手をまるで汚いものにでも触ったみたいにジーンズの尻で拭ってるのがみえて、頭に血がのぼった。
「おい、待てっつうの!いきなりなんなんだってば!」
むかついてスニーカーを脱いでサスケの背中に投げつける。ボカンと当たってサスケがよろけた。それでもナルトの方を向かないのに頭に血がのぼる。靴下を脱ぐと投げ、もう片方のスニーカーと靴下も投げつける。裸足の足でおぼつかないながら立ち上がると、ずいぶん先にいってしまったサスケを追いかけた。
お気に入りのスニーカーを拾い、靴下を拾う。スニーカーにだけ足をつっこんでよろけながら走りだし、ようやくサスケの腕を掴まえた。
「待てっつってんだろ!」
肘を掴まえた途端、おおきく振り払われる。あんまり勢いがよすぎて驚いていれば腹に思い切りサスケの蹴りがめりこんだ。
「んの、調子のんなっつの!」
拳をにぎっても酒でうまく足に体重がのらないし、視界がふらつくのにカウンターをあっさり入れられて吹っ飛ぶ。駄目押しで尻までけり飛ばされ、脱げかけたスニーカーを顔面に投げつけられた。
ちかちかする目眩を堪えながら塀にそってしゃがみこむともう糸が切れてしまったようにたちあがれない。泥のように眠気が襲ってくる。夜の斜め上から舌打ちとああくそったれという悪態、担ぎあげられるのが同時だった。
ずるずると踵を引きずられながら薄く瞼をようやくもちあげる。うすい唇をおもいきりねじまげて眉間に皺を寄せている。目じりに花びらが涙形に張り付いていた。歩くたびサスケの肩にごりごり頬っぺたが擦れて、夜風は涼しいのに体温が熱いくらいだ。サスケと呼びかけるが、サスケは痛そうに目を顰めただけでナルトを見ようとしなかった。
「……わりかった」
「……うるせえ、てめえなんか死ね」
ウスラトンカチと罵る掠れ声ほど切ないものはなくて、でもナルトになにができるはずもなくて瞼をおろして眠ったふりをした。春の夜は空気も温度も熟しすぎた果物みたいにやわらかすぎて落ち着かない。夜風も大きな生き物の寝息みたいだ。耳にサスケの海鳴りみたいな鼓動が響いてくるのに、自分のすこし乱れた拍動が重なって聞こえてくる。
(でもだってオレは、サクラちゃんのことが好きなんだ)
言い訳のように呟いていないと、なんだか泣きそうでよくわからなかった。
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