春の嵐で窓が鳴っている。あおい光が肌の上で粘り、のびちぢみをする。ちいさい声を聞きながら歯を食いしばり、きついところに沈んで浅い息をくりかえす。頭から肩のあたりにまつわるぬるい空気に喘ぎながら手をにぎれば縋るように指を絡められた。
無心な湿った熱が這い登ってくるのがやけに嬉しくて、いきなり青い闇が潤んで揺れた。瞬きをひとつすれば視界は晴れたけれど、汗とまじって少年の背中に零れてしまう。もうわけもわかっていないだろうけれど後ろ向きでよかった。まだ見せたくない。見られたくない。うつむいてあらわになった頚椎のでっぱりに鼻をこすりつけ、首筋をたどっていく。しめって張りつく黒髪にかくれた耳のうしろ、声を噛殺すたびにちいさくでっぱるところにキスを落とすと首をふられて逃げられた。 追いかけていけばベッドヘッドに頭をぶつけて、それでも丸まって逃げようとするのがむずがる子供みたいだ。足首をつかんで引き戻した。すいつく潤んだ肌で指先が上滑りするのは火傷の跡、乱雑な応急処置の痕、あたらしい瘡蓋、左手の骨が折れた跡に鬱血が残ってしまったところ、知っていた傷も今までしらなかった傷も全部いとおしんだ。 触れてみないとわからないことはたくさんある。背中の窪みを舌でなぞり下ろせば触れ合っているふとももの肌を粟立たせて、喜ぶ。声が聞こえなくても見なくたってわかる。そういう風にした。 五体満足で生きて、大きくなった、ただそれだけのことがわかるだけでどうでもいいくらい救われ、泣きたくなるほどうれしくなることがある。心臓の喜ぶ音が耳元でうなっている。 年をとると涙もろくなる、と誰かはいうけれど本当だ。大事なもの、好きなもの、同じ顔をしていてもどうしようもなく変わってしまうもの、変わらないものがいちいち目について、悲しくもうれしくて愛おしくなる。感傷がすぎる。わかっている。 そんな話を少年といつか交わしたりするだろうか。できなくたってかまわない。想像すらできないときだってあった。雨が降り出す音がする。水と土の匂いだ。莟もほどけて花が咲くだろう。 両手でだって足りない。 |