白い歯をのぞかせナルトは顔をくしゃつかせたが、すぐさまべそをかいた。

「…ぅ〜……」
「……」
「サスケェ」
「なんだよ」
「オレこんなだからふられっちまうのかなあ」

黙秘したら、ますます泣き出したので無表情のままサスケは慌てる。めんどくせえ、と誰かの口癖を思い出して口にしそうになったが辛うじて口をつぐむだけの理性はあった。御伽噺ではあるまいし、それこそ池か湖でもできそうなぐらい泣き上戸なのだ。

床にころがったビールの空き缶をひきよせてビニール袋に突っこんでいるとちゃぶ台につっぷしたナルトが足を蹴ってきた。

「……なんかいえよ」
「なにを」
「なんだよ、トモダチガイのねえ奴ゥ!」

鬼、悪魔、ハクジョウモノと罵られてめんどくさいとため息をつく。

「ぁんだよ」

寂しいこというなよ、といきなり鼻をすするナルトの隣でサスケは思わずもれた欠伸をかくすために俯いた。いうなよ、と膝をけとばされて、ああそうだな、と適当に相槌をうっていたら髪の毛を引っ張られ、反射的に肘でナルトの頭を小突いた。

「っでェ!」
「てめえがいうな、つか髪!」
「や、もうひっぱってねえし!」
「っ」

ぶつぶつっと頭皮のところに針をさすような痛みが走ってひっこぬけたのだと分かる。チと舌打ちをもらすと、ナルトの手甲の鋲のところに髪の毛がはさまってしまっていたのだった。

まだ痛むような気がする頭をかき回してため息をついた。もう一本、缶をあけようとするナルトにもうやめておけと言おうとしたが、諦めた。握力がもうろくろくないのか、油で指がすべるのか四苦八苦してるのを取上げて、プルタブをあけて押しつける。じっと瞼が半分おちた酔っ払いの眼が見つめてきた。

「そりゃさあ」
「なんだよ」
「おまえみたいな面でやさしくしたらイチコロだよな。ずりぃーよ。外見によるモテ格差がひろがりつつある現在の社会情勢にオレはダンコとして抗議するってばよ」
「……」
「…自分でいっててむなしくなってきた」

ウスラトンカチ、とちゃぶ台につっぷした頭をはたくとナルトが背中を震わせる。まだ泣くのか、とため息をついてとりあげた缶に口をつける。飲んでなければこっちもやってられない。

「女ってめんどい」
「めんどくさがるほどつきあってねえくせに」
「んだよ、その上から発言!……ダチといるほうが楽だけど、チンコたたねえし」

ばぶ、と盛大にビールをふいたサスケに冷たい、とナルトが抗議をする。台布巾でちゃぶ台をふいたサスケはついでにナルトの顔もそのままごしごし拭いてやった。そこまで追詰められていたのか。嘆かわしい。

「くせえ!めちゃくちゃコレくっせえよ!くさった牛乳のにおい!」
「……いいから黙っててめえは寝ろ。ともかく寝ろ、いますぐ寝ろ」

毛布をひきよせて投げつけると、包まってナルトは床に転がった。

「へへ」
「なに笑ってんだ」
「やっぱさ、女よかダチだよな」

だからテメエはモテねえんだとはいわない。友人を優先する男だって大目にみてくれる女の子はたくさんいる。不運にもナルトが好きになる子が違うだけであって。

「ダチみたいにさ、いられたらさ」

でもオレさ、ホモじゃねえしさ、ともそもそ呟くのに、いいから寝ろ、とむりやり毛布をかぶせて電気を落として立ち上がる。流しにのこっていたビールを流そうとして、サスケは一気に呷った。殴らないだけまだマシだと思えばいい。自分のほうこそ自棄酒がしたい気分だった。ウスラトンカチめ。





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