これは思い違いで、という唇を見ていた。目をみることはできない。初めて握られた手に違う心臓の鼓動が聞こえる。

「すぐ、忘れるもんでさ」
「ああ」

うなずくオレに目の前の大人はとても悲しそうな顔をしてごめんねと云った。きっと忘れる、といえば悲しそうな顔を、どこか安堵をにじませた顔をしてそうだねと肯定をする。カカシはオレを子供だと見くびりたいのだ、ということをオレは悟ってしまっている。

昔はガキだったから、といい訳にして傷跡を残しもしないで潔く立ち上がれるものだと盲目といっていいほど邪気なく思っている。オレは確かに子供だけれど、消えない傷が人生にあることをしっているし、嘘をつくこともできる。オレはとても忘れられそうにない、と云えたらなにか変わるだろうか。云ったところで変わらないことを知っているからなにもいえない。

オレはあんたとの十年後二十年後なんて考えられない。想像もつかない。ナルトでもだめでサクラでもだめだった、未来の選択肢にオレはアンタを含めることは絶対にありえない。臆病な手がそんなものしか選ばないだろうことも予想がつく。

祈るほどわかってほしいと願うのに、永劫にわかってもらえないことがあるということをアンタはオレに突きつける。分かってもらいたくても証明をする術がないものがあることをアンタはオレに突きつける。

好きだと一言口にだすだけで無性に泣きたくなる傷が心臓にできてしまったこと。それをこのずるい大人はどうやって忘れろというのだろう?

「オレもだよ」

誰ひとり知らない優しい顔でうなずいて手をつよく握りしめてくる、傷をたやすく深めるくせにどうやって忘れるというのだろう?キスすらしない恋は後悔すら甘いのに、どう忘れろというのだろう?





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