頬におしあてられた唇が離れる。ふせていた目をあげて一度瞬きをすれば、サスケはわずかに目じりを撓ませ唇の端をもちあげた。

「おまえはかわいいよ」
「もう、うれしくないわ」

勘違いするようなら絶対してくれなかったともわかっている。唇をもちあげ、あまりサスケの好まない悪党めいた笑い方で返しても、ナルトのような拗ねた顔はしてこなかった。サスケはあまりサクラに期待しないのが楽だ。仲間のよしみで一目を置いてくれる、ポジションはなかなか悪くなかった。

十二だったら世界の色さえ変わる気がした。
十五だったらあまりのことに泣き出した(あの頃は事態が切迫していたこともあって、気ちがい沙汰といっていいほどのぼせ上がっていただろう)。果たして今はどうだろう。

(愛しさが深まるだけだわ)

発情はしない。愛しさと発情が分かちがたく結びつく合うときはとうに通り過ぎてしまった。キスしてあげようかとおどけて言えば、目を瞬いたサスケはそんなことをしなくても好きだぜと返してきた。随分酔っているようだ。呆れた、と頬をあかくしたサクラは唇の端を持ち上げ音を立てて口づけをした。頬に。

後ろからナルトの悲鳴が聞こえたのに振り返る。

「ひっでえよ!」
「なんでよ」
「俺にはしてくれねえじゃんか!」
「だってあんた、やけに照れるんだもの。やりにくいわよ」

ひでえよ!と騒ぐナルトにやれやれと呆れたため息をついて隣をみるとグラスをもちあげたサスケと目が合う。だがゆっくりとさりげなく反らされた。その目じりにのった少年くさい、随分と初々しいはにかみに、サクラはどうしてやろうかしらとすこし考えた。一度プロポーズもどきをした相手だ、恋に摩り替えていいというなら吝かではない。

ひでえよ、とナルトが言うのにああ煩いわねえと呟いたサクラはグラスの端に噛みつく。横目でみていたサイが「生理?」と聞くのに呆れかえって横目に見あげる。

「あんたねえ、私じゃなかったら叩かれてるわよ」
「そうなの?いらついてるみたいに見えたからね」
「失恋のせいよ」

実にも花にもならない蕾のままだったから泪も辛気臭くて似合いやしない。

「慰めてあげようか」
「どうやって」

ひとつキスでも、と言うのに笑って頬を差し出した。





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