またくだらない喧嘩をしてる、と盛大にため息をついて眺めていたら、斜め上から相変わらずだなあ、と気の抜けたカカシの声がした。たしかに、と思ったらやにわに涙が溢れそうになってサクラは瞬きをおおくした。

ナルトとサスケときたら、ほんとうに相変わらずだった。ただそれだけだ。なのに涙がじわじわ溢れてきて、息で逃がしても足りない。

ず、と鼻をすすったのを花粉症だとでも勘違いしてほしい。とおもったらカカシがさりげなくポーチからハンカチを出し、ちょっと埃をはたいてから後ろでに差し出してくるものだから笑ってしまう。笑った拍子に涙がとうとう溢れだして、カカシのハンカチをひったくって顔をうずめた。支給品の石鹸の匂いがした。

「どうしたの?」
「なんでもない」

たずねてくる声に首をふる。なんでもない、ことをずっと忘れていた。なんでもないことでしかなかったのだ。思い出すことも出来なかった。

誰にこの喜びを教えられるだろう。

いつだって希望的観測をさも事実のようにいう上忍をみあげたサクラは、見直してあげようじゃないの、と思う。いささかどころでなく遅すぎの感があるのは否めないが嘘ではなかったし、遅刻の常習犯だから仕方ない。なにより泣きそうな女の子にさりげなくハンカチを渡すなんて芸当はなかなかできないことだ。特に言い争ってるあの二人に望むべくもなかった。

「サクラ」
「なに?」
「仲裁しないの?昔みたいに」

小さくつついてくるカカシにサクラはふん、と鼻をならした。

「先生、人間ってのは成長するもんなのよ。無駄なことはしないわ」
「さようで」

じゃあアイツら人間じゃないの、と言外に滲ませて笑うカカシに顎をしゃくった。

「見てよ、あのナルトの顔。尻尾振ってる犬と同じね」

平和だねえ、と呟くカカシとサクラの目の前、電柱が平和のとばっちりで粉砕され倒れこんでくるのは五秒後の話。





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