東西、とざい。

曰く魔縁の一は天狗なりと。

僧の瞋恚の炎おさえがたくして魔道におちたるとや。

川に下りては猿となり、山にすまう白首の獣ともよばい星の化身にして七曜九曜に縁深く太白の使い戦乱のさきがけとも言ふ。

須佐乃男尊の猛気よりなりたるとも種種さの伝えあれば未だ詳らかならず。

さて天下分け目の合戦を制し、かの神君家康公が腰をすえましたる江戸湊、公方さまの膝元と春は上野の桜に酔い、夏は両国花火に玉やかぎやと声をあげ、秋の月は武蔵野にて独酌、冬は格子をあげてながむる不忍池の雪と、見るも夢語るも夢の栄えようにござる。

さりとて天地開闢古来より日月の来るは東とさだまるに、西方からせまりたる暁を天綱をみだす凶兆といわずしてなにをかいわん。泰平の夢ははてさて天魔のいたぶるところとなるかならぬか。

して真向かうは愛宕は太郎坊、比良は次郎坊が弟分、浮世の乱れはなはだしきに魔王尊のくだしたる流星が一こそ、雷をひきい火を纏い七星降魔の剣をふるいたる世直し天狗なれ。

まずは浪人はたけカカシ、世直し天狗となのるの次第、それを知ろうず方々はまずつぎの物語を読ませられい。



 雷 火