運命というものを信じるか。
この世のすべての理に続く見えない糸だ。
それは世間でいう人間がこの世に生まれもった「しがらみ」とも言うのかもしれない。
まあその運命ってやつを信じるも信じないも、流されていきるかいきないかも当人の問題だ。
だから俺は言う。「お前は運命を信じるか」 俺は信じている。その細く長く。どこからきてどこへいくのか。まったく想像し得ない流れという運命を。ああ、人生よ。俺を楽しませてくれ。この手で爆発する日常に指先を赤く染めても、心から笑い転げる一日を願う。








ロンド















  



「運命だ」

男が言った。だからサスケは「そうだな」と応えた。
後頭部に押し当てられた銃口ががちりと鳴って、引き金が引かれた。

「十秒考える時間をやろう。黒幕は誰だ」

男のすこし掠れた声は静かに重くじわりとサスケの心をふるわす。
かかげていた両手が痺れる。ほんのすこし横に動かすと、さらに強く銃が押し付けられた。

「動くな」

サスケは息を詰め、つばを何度も飲み込んだ。
部屋を背にして立たされ、バルコニーに続く硝子窓に情けなく映り込む姿に、サスケはひっそり笑った。
自分はまちがいなく死ぬ。この男が引き金を引けば確実に死ぬ。緊迫した状況下、ミッションを失敗した己の腕の浅はかさに心底呆れ果てたのだ。

「この屋敷には他に何人潜んでいる」
「三人だ……」

サスケは両目を瞬かせ、硝子窓に映り込む男をじっと見つめた。
社交界で見かけた男だ。黒いスーツに細身の身体を包み込み、高そうなピンが部屋のシャンデリアで光はじくのが時折チラチラと見えた。

『内部の人間は他の人間がわからない共通の隠しアイテムを持っている』
『それがタイピン』
『そうだ』

二時間ほど前に交わした相方との会話を思い出す
。 これこそがつながりを示す決定的な証拠……。

「三人だ。他にはいない」

実際この屋敷に忍び込んでいるのはサスケだけだった。だが、最悪の状況を想定し、この屋敷に入ってすぐ監視カメラに細工を施しておいたのだ。ゆえに相手側からみればスパイが複数いるかのように見えるだろう。

サスケは思った。これこそが男に投げやられた運命という要素が働く瞬間だと。
俺は死ぬかもしれない。死なないかもしれない。
どちらに転ぶか。男の糾問に答えながらサスケは今一度硝子へと視線を投げた。
男の咥えていた煙草が唇から離され、床に落下した。
革靴のつま先でねじりつぶされ、辺りは煙たい煙が薄っすらと舞うだけになった。

「なあアンタ」
「あン?」
「どうせ死ぬんなら最後にアンタの名を」

かかげていた片手をわずかずらす。銃を握っている相手の手首に指先が触れた。彼は眉を押し上げ、それから喉の奥で笑った。

「男のくどきにゃあのらねえ」

笑うのにつられてサスケは唇を持ち上げる。

「だが、名前ぐらいなら教えてやる。――ゲンマだ」 
「そうか、ゲンマ」

サスケの真っ黒な瞳はそらされることなく前を向き、名を呼んだ男――ゲンマの動向を追う。
「さっきの問いの続きだ。オレは運命を信じている。アンタと同じように」
ゲンマの手首から離れたサスケの右腕がひゅ、と空気を薙ぐ。瞬時に後ろへと飛び退ったゲンマは衣服が鋭利な刃物で切り裂かれるのに舌打ちした。

「なるほど」



鼓膜を劈く銃声が二発鳴り響いた。



「それなら運命なんてものに逆らうもんじゃァねェ」




シャンデリアが砕け落ちる。
鈍い呻きのあと濃厚な血の匂いが満ちた。
咄嗟に身をひねらせ落下してきたシャンデリアの下敷きになることは免れた。
肩口の傷を強く押さえ、サスケは目の前に立つゲンマを見上げる。
つぶれたのは自分ではなく、代わりに男が一人血まみれで倒れていた。

「な、何故助けた!」

聞こえた銃声のひとつはサスケを狙ったものであると考えて間違いない。しかし、ゲンマが打ち抜いたのは後方から来る男を妨げた。
敵ではないのか。いやまさか。そんなことは聞いていない。混乱したまま瞳を彷徨わす。複数の足音がこちらへと近づいてくるのを振動でとらえハッとする。

「運命だ、」

ゲンマはようやく口を開いた。
冷たい色素の薄い瞳が見下ろしてくる。
彼は大股にサスケへと歩み寄り、腰を屈め乱暴にサスケの腕を掴んだ。負傷していた傷が痛み、喉からうめきをもらした。
ほぼ引き摺り起こされるように立たされ、その後サスケは宙へと放られていた。
抵抗する余地などなかった。
あっけなくサスケの身体は窓ガラスへと打ち付けられ、衝撃でガラスは粉々に砕け散る。

  「何故……」

宵闇に飛び出したサスケの虚ろな瞳は、落下していく自分を見送るゲンマと、彼の後ろから駆けつけた男を幾人かとらえたが、意識はそこで断絶された。





















words by K フランチェスカ マンマミーアさま(イチシキ)








スパイ、銃、一瞬の出会いにすべてが。
運命の女神の手のひらで踊りつづけるのですね。
これぞロマン…!
即興とおっしゃりながらのこの完成度。
ゲンマさんのカッコよさに悶えました。
ありがとうございました、ふんどしメイツ一号のお姉さま…!

ROSSO

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