Oh! my darling









十分に手加減された足がカカシのあたまを蹴った。おもわず手の中から読んでいた巻物が落ちてころがる。

「寝っころがって読むな」
「だってだるい、よー」

人には言う癖しやがって、と毒づくのに、フローリングに頬杖をついたカカシは右の眉だけ器用に上げてベッドに腰掛けているサスケを見上げた。

「姿勢わるくすると目がわるくなるだろ。サスケはただでさえ目つき怖いンだからさァ」

近目になると、といおうとしたところで目の前のつま先が跳ね上がったかと思えば、ぱんと手の中から巻物が跳ね上がる。カカシが手をのばすより早くひったくられた。

「あらら」
「余計なお世話だ」

フン、と鼻をならしたサスケは忍術書に目をおとしてしまう。空っぽの手のひらを数度にぎったりひらいたりして見下ろしたカカシは、重力にしたがってずるずると床に倒れこんだ。サスケのあたまの向こうに見える空はにび色で今にも泣きだしそうだ。春らしい土のしめった甘みがまじる空気のにおいと肌寒さに遠からず雨が降るだろうと思って午後の予定は修行から部屋で読書にスライドしたのだった。

(でもそろそろだな)

目を閉じれば皮膚の感覚や聴覚がそのぶん冴える。
しょうしょうとした静かなざわめきがカーテンのように部屋を包むのがわかった。明かりをつけない部屋には影もできないほどの光で満ちている。

時計の音とときおりページをまくる音が落ちるばかりでカカシはぼんやりと右目を床の上に走らせれば目の前にサスケの足だ。

さらしで捲かれている部分やサンダルでかくれているところだけ生白い。

午前で終わった任務の名残か三日月模様の爪に泥がはさまっている。草ででも切ったのだろうか、くるぶしのでっぱりあたりに走った赤い傷にかるくキスをするが、ほうって置かれる。

最初はすこし触るだけでもなれない獣みたいに緊張でがちがちだったから、無頓着にちかい鷹揚でもいい。うぬぼれてもいいぐらいだと自負している。軽く吸い上げても、すこし足指が跳ねるばかりでまだお叱りは降ってこない。足は生意気にも数年後の成長を思わせるように身長の割に大きい。ふと興味をひかれて、カカシは手のひらをサスケの足に合わせた。

「なんだよ」

本を持ち上げたサスケが足の間から、カカシを見おろした。

「お前、サンダルのサイズ合ってる?」
「こないだ変えたばかりだ。なんでだ」
「靴擦れがある、ここ」
「ッ」

ぬ、といきなり舐めあげられたサスケは思わず足を動かした。ごん、と蹴られたカカシがひどいよダーリン、とぼやくのにもう一発。

「離せ。つーか誰がダーリン」
「ん?ハニーがいい?」
「死ね」
「だから足癖わるいって、おまえ」

寸前に足首をつかんだカカシは上体を腹筋だけで起こすと、サスケの膝にあたまを乗せた。膝小僧にも唇を寄せるが、色めいたものではなく犬がじゃれつくような感じだ。

「……あんた退屈なのか」
「ご名答〜」

かまってー、といって、巻物をもった指にかるく口付けてみる。やめろよ、といいながら邪険ではないのに気分をよくして、かたちのいい指ひとつひとつにキスだ。

(やっぱ手とかももう節っぽいし)

すこしかさついてるのも、肉刺で指の腹がかたくなりだしてるのも、なんだかいい感じで飽きない。ふう、とため息が聞こえた。額当ての結び目の上あたり、ちょうど旋毛のところをむんずと掴まれた。痛い、といおうとしたら目の前に黒髪が視界のまわりにおちてきて、天井が隠れた。

「……あらら」
「うれしいかよ?」

カカシの下唇を唇でやわくはさみ、顔を離したサスケが見下ろしてくる。日向で寝転がる野良猫が子供のいたずらを見逃すような感じだ。調子にのってもう一度といえばあっさり唇が落ちてくる。今度こそ現実だと認識してカカシは黙った。

「……」
「おい」
「え?え……あー、うん、まあ、……もっと」

部屋で修行しよう、と言ったときは純粋に雨に降られるのがいやだっただけで、けっして疚しい理由はなかったのだ。どこかの聖典を左胸にあててだって言える。

「なに、照れてんだよ。耳赤ぇぞ」
(自分だって、なんなのよ、そのほっぺ)

息継ぎの合間のセリフが癪に障って、りんごみたいでまるで子供のくせに、と口には出さずに言う。おもわずがんばると、じんわりと温かくなった指先がカカシの髪に絡む。薄目で見た顔は睫を震わせていてもやっぱりふてぶてしく満足げでくやしくなる。髪にからむ手をにぎりこむとキスに集中した。

「ぅ、ぐ」
「……もうちょっと」
「……ん、……ふ」

あごをつかんで、首筋をなでおろせば喉仏のでっぱりも目立ってきている。ぶる、と震えてカカシの髪の毛からほどけそうになる指を逃がさず、強く絡める。

「―――あれ?」

きづけばサスケはぐにゃぐにゃだ。すこし腫れぼったくなったような唇の端をぺろりと舐めて形勢逆転。

「――大歓迎、って感じ?」
「……るせぇ」

ハーフパンツに侵入した手のひら、汗ばんだ肌と指先のぬめった感じにおもわずくっくと喉で笑った。

ぶるりと期待するような膝の下に手を入れてたててやり、持ち上げた踵の赤い靴擦れにひとつ、お気に入りの膝小僧にひとつ。日焼けしらず、本人も知らなさそうなところにある黒子にもひとつ。

「なめてもいい?」

返事は待たず一番かわいいダーリンにまたキスだ。





「Oh!my darling」/カカシサスケ








KISS祭りさまに。
精一杯のいちゃつかせです。












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