呼吸をととのえるまもなく柔らかなソファに体を沈められる。紐子をほどくのすらもどかしいといいたげにさぐっていた手が襟元をくつろげ、濡れた唇が小さく吸いあげてくるだけでたやすくサスケの息は乱れた。

カカシにしてはめずらしく焦らしもせず、下のベルトに手をかけ前を寛げる。ゆるく熱をもった場所をつかまれ、サスケの喉からほそい声が漏れた。腰が脱がす動きをたすけるように浮いてしまう。

随分と、と眉をひそめ愛撫をしていたカカシが動きをとめたのはサスケの蕾に指がふれたときだった。もうすでに昂ぶっていたサスケがゆっくりと瞼をもちあげる。

「…?」
「へえ」

ぐっといきなり捻じ込まれてサスケは息をつめた。カカシの笑いながらもどこか冷えた声が鼓膜を不安に揺らす。

「誰としたの?ここ」
「…っ」
「こんなに柔らかいし」

2本の指をひろげるようにされていても、苦痛を訴えるどころかカカシの指に絡みついてくる。あふれた透明なしずくがつたい落ちていく淫らさにサスケはたえがたい羞恥を感じ、震えるしかできなかった。

「ちが……っ」
「自分で触ってみる?入るよ、おまえの指くらい」
「や、めろ」




















恋人は危険な暗殺者2



















うすくまくれあがった唇が愛しげに絡みつく悩ましさに目を奪われる、いや目を奪われるからこそ憤りを押さえることができない。

滴るような香りを漂わせながらも咲くことも知らぬげにつつましやかに閉じていた蕾、純白の雪のような体を押しひらき、清しい甘露にはじめて口づけた夜はそう遠くない。どれほど深く暗い別たれた夜が永劫つづくかに見えても、彼方に輝く星のきらめきにカカシは愛しい少年の面影をみて焦がれた。狂おしく燃え上がる愛という花は夜毎に散りながら不死鳥のごとくよみがえり咲き誇り、カカシの心臓を動かしていた。

ただ一度味わった蜜は血のように深い酩酊をもたらす美酒だった。

淡く色づいた白磁の膚に女神がつむいだ絹糸のような黒髪がまつわるなまめかしさ、凛と氷雪をいただく冬薔薇をおもわせる唇があえかにほどけ奏でる天上の調べの妙なること、なにより月さえも眠る劫久の夜を閉じこめ星すらからめとる神秘のオニキス、あの闇色の瞳が自分ひとりを映しこみ涙に潤んだときの快美、あれこそは官能だった。初めての愉楽にとまどいうち震えながら無垢な体をみずからとろけさせ極彩色の快楽の翅をひろげ歓喜の蜜をこぼした、清楚と隠微のいりまじった禁じられた果実の甘み。

あの夜自分が手に入れた末に感じたのはただ目でいとおしむべき花を手折った愛惜ではなかったか。天使を自らの手で堕とした悲哀ではなかったか。だがそこにはたしかに楽園を踏み荒らす蛇の愉悦があった。穢れも穢れなきこともしらぬ純潔を禁じられた快楽にそめあげていく果てしのない恍惚があった。

(でもそれも俺だったらの話だよ)

太初の人殺しをひきおこしたのは嫉妬だ。

ほどけるまで厭きれるほどの時を待たなければなかった、だが燃え上がればいともたやすく官能の炎にとろけていくことを思えばそのこわばりさえいとおしかった。サスケの躊躇いも戸惑いすらカカシは愛した。

だがいくつかの夜を隔てた今はどうだ。

「やめ…ッ」

抗う言葉ばかりの唇とは裏腹に、指先ひとつではしたないほど蜜を溢れさせて濡れそぼり隠微な花びらをひろげていく。含羞いに伏せられた眼差しにたたえられた夜におう花より密やかな、けれど確かな媚態はカカシの知らなかったものだった。

真珠のような雫をうかべる膚にゆっくりと吸いつく。首筋を舐める舌の獰猛さ、軽く歯をたてれば食らわれるのを待つ小鹿のようにサスケは睫をふるわせた。冷たい青い炎がカカシの心臓を暗く舐めていく。

「今日ね」
「ん……ッ」
「おまえにさわったとき思ったんだよ」
「……?」
「どんだけされたの?」
「ぁ、やっ」

力なく抗う言葉にますます憤りがこみあげる。おそらくは抗いの言葉すら見せずおしげもなく乱れたのだろう。恥じらい戸惑いながらも初々しい青い果実のような体を自らひらきなまめかしい声をあげ深々と貫かれ、どんな指先でさえ毒のように甘い蜜を零すほど深い快楽の波間に溺れたのだろう。

「どんな風にされたの?」
「ちが……ッ」
「ああ、こんなにして」

短く嘆息されてますます羞恥がつのるのに、鼓動ははやり指先がふるえた。罵られたとたんシーツに滴り落ちたのをみてサスケはか細い声をあげる。

「恥かしいこと言われるのがすきなの?」
「ちが、やめ……あ、ぅッ」

中指に後ろをかき回されながら果実のような先端を親指で捏ね回され、幾度も細い肢がシーツをかきみだし、あおのいた喉がさらに反る。つぶした親指の下から熱い白濁とした蜜が幾度もちいさく噴きだした。

「もういっちゃったの?」

つうっと糸をひいたのをシーツになすりつけたカカシは荒い息をこぼすサスケの顔をのぞきこんだ。薄くひらいた唇が喘ぐようになにか言おうとしているのに耳を寄せる。

「なに?」
「……が」
「だから、なに?」

聞こえないよ、と言いながら華奢な体に覆い被されば、サスケはますます顔を隠して唇を噛みしめて閉ざしてしまう。あせばんだ太股をおしひろげればぴくりと強ばる。だが抵抗も意味をなさないと悟った諦めか、無反応を貫くことでカカシを無いものとしようというのか、サスケは息をのんだだけでうごかなかった。カカシの下腹にあたる果実ははしたなく快楽の蜜にまみれて誘っている。だがどこまでも蹂躙されようと心は渡さないというように頑なに結ばれた唇は震えるだけだった。

「なんて、言ってるの?」
「ひ、―――……ン、ン」

みちりと割りひらいていけばあがる傷ましいほどかぼそく息をのむ声を聞かなかった振りをした。きついとわかっていながら解れきっていないところを、ゆっくりと形を知らしめるよう焼き鏝をおしあてるよう侵していく。血の色がうすまるほど噛みしめられた唇を見つめ、溺れるようなキスをしたいと思いながらもできなかった。

キスはきっと許されない。

ぽつりとカカシの唇からしたたった汗が、サスケの頬におちて涙のように流れていく。茹だるような熱がお互いの体を包んでいるのに心はひどく渇いて冷えていた。体の一部だけがひどく高揚しながらもどこかが氷のように冷たく強ばりついている。

みじかい呼吸にあえぐ唇が、ちがう、と呟いた。

「ちがう?なにが?」

ふりあがった拳がまともにカカシのこめかみを殴った。不意打ちに首をゆらしたカカシは左半分の視界をとざしながら、紛れも無い怒りに両目を深紅にそめかえた少年を色のない眼で見下ろす。

「……った」

ばたばたっとシーツに咲いた血の色、ふたたび顔面をねらう細い手首をカカシは捕えた。

「悪いけど、二発目はないよ」
「悪い、なんて、思ってもねえだろうがっ」

手首が痛むのもおかまいなしに男の手を振り払おうとしたが、たやすく放してくれるはずも無い。もぎ取ろうとしても指が食い込むだけで、かなわなかった。ふっと糸がきれたようにサスケは抵抗をやめた。シーツに放り出された人形のような腕がぱたりと落ちる。

「きに、しろ」
「なに」
「もう、いい。あんたの好きにしろ」

ふいにかすれ潤んだ声にカカシは息をのむ。

「つっこんで、とっとと終われよ。そんでいいんだろ」

くそったれ、とはき捨てたサスケは捕らえられていないもう片方の腕で目を覆い隠し、シーツに顔を埋めた。顔を見たくなかったのではない、情けない顔を見られたくなかったからだ。真珠のような歯がやわらかな唇を噛みしめる。

「終わったら金輪際オレにさわんな、消えろ」

サスケ、と今更とまどったような声が耳朶を叩くのにちくしょう、と罵る。全部嘘だ。

「それでいいだろ。好きにしやがれ」

躊躇いがちに髪をなでる指先ひとつ、たかが指先ひとつだ。まやかしの優しさなんて見せないで欲しい。渇いて喘いだ体が簡単に開こうとする。体だけじゃない。最低だ。

泣いてるの、と聞かれて泣いてないと返す。泣くわけがなかった。泣けるはずもなかった。カカシなんかのことで。

「――そんなに、そいつが好き?」

問いかける声に渇いた笑い声すら洩れた。なんて愚かなのだ。きっといま自分の顔は犬のように卑屈で醜いに違いない。

「……あんただろ」

なにそれ、となおも暴こうと腕をつかんでくるのに必死で抵抗する。引きはがされかけ、顎をつかまれた。まるで断罪するかのように色をたがえた双眸が見つめてくるのを睨み返す。眼差しに力をいれなければ、頑是無い子供のように泣き喚きそうだった。

「あんたが、……あんたを、指とかにおいとか思い出してたまんなくなる。しねえと、夜も寝れねえ」

どうしようもねえんだ、ときつく眼を閉じて破れかぶれ干割れた声ではき捨てれば、髪をなでていた指が動きをとめるのがわかった。

「……触れよ、あんたの好きにしろ」

喉を震わせたのは命令の形をとったまぎれもない、月が欲しいと願うより愚かで惨めな懇願でしかなかった。

体が欲しいというならどんな娼婦より淫らに足を開いてやろう。

(それがあんたの望みなら)

眦に浮かんだ涙をサスケは息を吐くことで忘れようとする。どうされてもよかった、たとえこの男の心が手に入ることがなくても。

だから一瞬、わからなかったのだ。

「……してるよ」

なにを言われたかなんて。









いましめる両腕の苦しさにサスケは夜の底で目をみひらく。首筋にあたる安らかな吐息、ろくろく眠っていなかったくせにあんな無茶をして。気だるい体は午睡のしすぎのようにどこかほのかな甘さを含んでいる。

(どうしよう…)

愛されることがあんなに苦しいことだなんて知らなかった。幾度もささやかれた愛の言葉がよみがえりサスケは熱くなった耳を指でそっと押さえる。

眠る男をみつめ、その瞼に口づけながらそっとささやいた。
聞こえるはずはないとしってはいても。

「……愛してる、カカシ」





fin












「ルビーにくちづけ」/カカシサスケ







なんとも穴ぼこだらけの展開で完結。
エロシーンは一部隠してます。

エロいんじゃないのです。
は、ずかしかったのです、本当に本気で。
夜間劇場より恥かしい!





ヒントは恥かしいセリフです。






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