金星ロケット









涙の膜がうすく張った、底なしに深い黒瞳が鈍く光っている。
ぎちぎちしていてすこし痛い。でもこれ以上ないくらい眉間に皺を寄せているサスケの顔を見ると、冗談でもいえない。汗と一回だしたやつでぬるついた腹が乱れた呼吸のために膨らむ、瞬間しめつけられて、ナルトは低くうなった。

「……う」

窄まりの熱さが熔けそうに堪らなくて、だめだ、今すぐめちゃくちゃに揺すぶってぶっかけてしまいたい。ガラスの糸一本、ギリギリそれだけの理性が身勝手な衝動に動きだしそうな体を押しとどめている。バカみたいに息が上がって、顎で結んだ雫がぼたりとサスケの肩に落ちた。

「…スケ、ちから、抜けって」
「できっかボケ……ぅ、あ」

声を出そうとした瞬間、連動して下腹に力が入り、サスケはうめく。あげく中の動きをもっとも敏感なところでダイレクトに受け止めたナルトの質量が増し、ますます追い詰められる羽目になった。痛え、いてえいてえ、半端なくいてえ。冗談じゃねえ。型破りなのは知ってたが、ケツの穴に突っ込むなんて考えつくな。しかもなんでオレがカマ掘られる羽目になってる、ちきしょう。いてえ。

「グ、っ……ごくな、ドベ」
「ぅう、でも、も、オレ、限界」

しめきったカーテンの隙間から、街灯の青白い明かりが差し込み、覆い被さるナルトの顔にほのかな陰影をつくっている。汗を浮かべ、眉根を寄せた顔がぎりぎり最後のところで堪えてる、切羽詰った顔だった。金色の睫毛が、蝶の羽のように光をはじいて震えている。当然上記のセリフも掠れきった泣き言の響きを帯び、痛みに濁っていた頭で、サスケはそんなに気持ちいいのか、と思う。

まったくもってこいつには驚かせられる。がしがし突っ込みてえのか、まごう事なき男の体に。闇の中、見えないからこそ触れて気づいただろう、乳もなければくびれた腰もない、あげく突っ込むところは濡れもしない。肩に担ぎ上げられた足は筋肉だけだし脛毛も生えていて、お世辞にも華奢とはいえないのにも関わらずだ。

「……サスケ」

渇いている声、欲する声だ。あのナルトが、このオレに。じわりと血のように赤く暗い眩暈といっしょに浸したものがなんなのかは分からないが、二人の体温の間でぬるまった空気の温度と同じぐらいの温かさだった。こくりとサスケは小さく顎をひき、唾を飲み込んだ。眉を顰めながらいぶかしむナルトの唇に噛み付いて、引きつれる痛みをかみ殺してナルトに足を絡める。腰を誘うように一度、揺すぶった。

あ、とナルトの声が漏れる。ひとたまりもない、捻りつぶされそうな声だった。
また頭の奥がじわりとした。悪い、ごめ、ごめん、サスケ、オレ。躊躇いがちだったが、あっという間に箍が弾け飛び、決壊した。むさぼるような動きとねじ込まれる痛みに、喉奥でサスケはうめいた。子供のようなかぼそい声をあげてナルトはぶるりと震え、遂情した。

荒く息を吐きながらナルトはサスケに上体を凭せ掛けた。繋がった場所が軋むが、熱く湿った空気が首筋を撫でる方が気になった。喘鳴だけが部屋の中にしばらく響いていた。ずる、と引き抜かれる。

はあ、とナルトが息を吐いた。それから思い出したようにサスケの唇をふさぐ。太ももから腰骨をたどって這い上がった手は、腹筋のくぼみをなぞった。臍を撫でた指がゆっくりと掻き分け、痛みで萎縮していた場所を慰撫した。謝るような仕草に苛立ちながらも、跳ねあがった心拍数は思うままにならない。よく知った手管に高められてサスケもあっさりと欲望を吐き出し、意識をうしなった。



















すう、と穏やかな息が聞こえる。ナルトは肘をついてゆっくりと体を起こした。もう汗はひいている。

身体的な負担でいったら圧倒的にサスケのほうがダメージが深いに決まっていた。ぐちゃぐちゃのシーツと肌掛け布団の間で眠っているサスケの顔が存外穏やかなことにホッとして、顔を覗き込む。だが、目じりからこめかみへ続いたうすい涙の痕を見つけて、ナルトは喉もとに氷を押し込まれるような気がした。

ベッドから降り立ち、下着にもそもそと足を突っ込む。気配を消しているわけでもないのに、サスケは目覚めない。とりわけ気配に敏く、眠りにあさいタチなのだから、そうとう負担がきつかったのだろう。床に散らばったサスケの服を拾い集め、洗面所へと急いだ。旧式の洗濯機の洗濯槽にサスケの衣服を突っ込み、白熱灯の下で琺瑯の洗面器にぬるま湯を張り、タオルを準備した。手早く自分の体を拭いて、いったんタオルを洗う。それから自分のベッドへとまた戻った。

腹辺りにこびりついた白濁を拭い、シーツに投げ出された足を拭く。なるべくまだ目を醒まさないように、まだその目に自分を映さないように。もし、またアカデミーのころのようにナルトの存在を歯牙にもかけない、無感動な目になっていたらどうしよう。視界にも入れさせてもらえない、まだ瞼の裏には鈍い黒目の光が焼きついているのに。

ぶるり、とサスケが体を震わせた。ナルトが手を止める。

茫洋とした眼差しを天井辺りに投げ、ゆっくりと瞬きをしたサスケはナルトを認めて、顔を顰めた。

「なにてめえ、情けねえ面してやがる」
「……ねえかんな」
「はァ?」
「オレは!」

あやまんねえっつってんだ!とナルトは怒鳴った。

ぜいぜい、と肩で息をする。嫌がったって抗ったって、どうだっていい、やりたいからやったのだ、それにそうだ、してもいいかと言ったらサスケだって拒まなかった、自分から動きはしなかったが、逃げようとはしなかったのだ。だからオレは悪くない、だから謝らない。後悔だってしない。いいか、オレはおまえだからやったんだかんな、男なんか好きなんじゃねえぞ、それにお前だっていったじゃないか、そう云ってやる。

責められるのを覚悟、半ば自棄でナルトがサスケを見れば、サスケは口をへの字にしていた。怒りも何もない、顔だった。

「ウスラトンカチが」
「んだと!まじめに云ってンだかんな!」
「……じゃあなんだ、お前、オレにあやまるつもりだったのかよ」

ぎら、と刃のように底光りする眼がナルトを射抜いた。唐突なサスケの怒りに、逆噴射のようなナルトの怒りはすぐしぼむ。元から酸素のないところで無理やり燃やしたような怒りの火だ、長続きするものじゃなかった。しぜん、睨みつけていた眼差しが弱くなる。

その表情の変化をとらえ、サスケはますます怒りに頭に血がのぼるのを感じた。ケツは痛いし喉は痛いし、体は軋むわ、汗臭いわ、ベタベタするわ、はっきり云って最悪だ。何より最悪なのは、上滑りしそうな訳の分からない怒りをぶつけた挙句、不安でしょうがない面をしてる、このヒヨコ頭だ。

「カマ掘ってマジすいませんでした、とか詫び入れるつもりかっつってんだ!ざけんな、ボケ!」

だったら掘られた自分の立場はなんなのだ。好き好んで掘られて、そんで謝られるなんてふざけ過ぎて頭の螺子が弾け飛びそうだ。体さえ動くなら、顎の骨をかち割ってやりたい。あんな情けない声だしていきやがったくせに。男の体でいきやがったくせに。

謝ってみろ、てめえ、二度とやらせねえからな!とサスケが怒髪天をつく、を通り越してしろく蒼褪めた表情で吐き捨てた。ぽかんとしたナルトは、言葉の意味が耳から脳味噌に沁みるのと同じ速度で、ぐあっと頭に沸騰した血が滾りあがるのを感じ、思い切り腹の底から怒鳴りかえした。

「――い、一度で足りるか!」

一拍をおいて濡れタオルが投げつけられ、パンツはどこだと怒声が響いた。

















「金星ロケット」/ナルトサスケ





サブタイトルは、「二人ならどこまでも」。

バカップル。数年後、初エッチ。
しかしガラが悪い。






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