エンピツとダイヤモンド 要員が一人脱落したとかでいきなり外勤が決まったのに、やらせてといえばあっさりお許しがででびっくりした。 サスケはいれられるのを好まない。まず面倒だし手間がかかるのもわかる。 自分だってあまり下になるのは好きではなくて、だからいつも大概、お互いの手か口かで、ねだったときに素股をしてもらうぐらいだ。 でもときどき無性に、女よりはるかにきつくて手間のかかるところに入りこみたくてたまらない時がある。そういうときは何をしていてもずっと、頭にああしようだとかどうしてやろうだとか、考えてることが聞こえる人がいたら恥ずかしいことがうずまいてバカみたいになる。もともとナルトはひとつのことで頭が一杯になりやすいのだ。 耳の後ろをひっかくように指がうごくのがくすぐったい。舌をずるりと動かす。びくびくはねるのに眼をあげると、唇をうすく開いてじっと感じてるみたいだ。後ろに入れた指がときどききつく締めつけられて、パンツの中がすこし濡れるのがわかる。早くはいりたいと焦ると、指の動きがきつくなったらしくサスケが小さく声をあげた。 「っ」 じわりと覚えのある味が口の中にひろがるのを舌でえぐるようにして、頭をうごかす。床の上でサスケの足が丸まっては開いたりした。息が切羽詰ってきて、髪の毛をひっぱられる。出る、と掠れた声で言うのに、ふくらんだ先にしゃぶりついて、後ろの指をぐっとまげた。びくりと震えたサスケのが口から零れる。 「あ」 「……」 サスケが俯いて両目を片手でおおい、ひひ、とかすれた変な声でわらった。まともに顎から口元にひっかけられたナルトは怒っていいのか呆れていいのかわからず、むやみに血の巡りがよくなってぶるぶる肩をゆらす。涙目のサスケがティッシュをとって子供の顔をぬぐうみたいにごしごしふき取ってくれた。泣くほど面白かったらしい。 「わりぃ」 「ティッシュがついた」 「そりゃ、しょうがねえだろ。拗ねんなよ」 「こんどぶっかけてやる」 唸ればだまったサスケはすこし悪いと思ってるらしく、風呂場でな、と言った。サスケは出してすこしだるいんだろう、欠伸をかみ殺す。 「寝んなよ?」 腕をひっぱるとしょうがないものを見る目でサスケが見てくる。でも大概、サスケに言った自分の望みが叶うことにナルトはたまらなくなる。こいつを捕まえることができてよかったと本当にしみじみ思って好きだと言えば、 サスケは眼をまるくした。悪いもんでも食ったのかととんちんかんなことをいって心配するのに、がっかりする。 「おまえ最低」 「拗ねんなよ」 早くやんねえと寝るぞ、というのに、ナルトはもう一度最低、と呟いて笑ってる唇に噛み付くみたいにキスをした。 セイタカアワダチソウがゆれる川沿いの道をあるいていると、遠く祭囃子が聞こえた。暮れかけの町並が数日前よりきらきらしているのに、軒下に提灯が下げられているからだとようやく気がつく。縁日があるなら行きたかったけれど、任務ではいけるわけがないし、知り合いもいない知らない町だ。なまぬるい川風に汗が冷えて、ナルトは小さくくしゃみをした。 「おい、夏風邪か」 「バカじゃねえっつの」 「誰もいってねえだろ、んなこと。話をきけ」 「へーい」 「だからよそ見してんなっつの」 そんな祭いきてえのか、とアスマが笑う。 「んー、誰も知り合いいねえからいいんだけどさ、見てるだけで楽しいじゃんか」 「今日の仕事が終わったら休憩やるから行って来たらどうだ」 「アスマのおっさんてさ、けっこうガキに甘いよな」 そうか?と歩きながらタバコの灰を落とすあとをついて歩きながらナルトはアスマに笑った。 「なんつうの、なんだろ、カカシ先生に比べてガキ扱いに慣れてるよな」 「あいつと比べんなよ」 「うわ、先生かわいそ。そんでオレの仕事は?」 「伝令がくるからそいつの説明うけてこい」 超アバウトな説明、と文句をいうと一応コレが指示書だと見せられた。 「確認事項はこっちだ。これだけは忘れんな」 「了解。場所は」 地図みろ、といったアスマは歩き出してすぐ人ごみにまぎれてしまった。一ヶ月の予定はのびのびになって、来月にも終わりそうにない。木の葉がすこし恋しかった。 知らない町でも繁華街はどこも似通っている。雑居ビルにはひしめきあうような看板と電飾がやすっぽく光って、夜の間だけきれいだ。橋の下まで信じられないぐらいせまいところにも居酒屋やパチンコ屋が並んで、ばかみたいにけたたましい。 ギターを弾いている男の前にはギターケースが置かれて「波の国からきましたミュージシャンめざしてます。カンパお願いします」と書いている。でも歌っているのはナルトでも口ずさめるような誰でもしってる曲で、自分の歌ではないのかとちょっと笑ってしまった。通り過ぎる人は一瞥を投げるだけで、周りに座り込んでいるのは知り合いらしい。 客引きの間をぬって歩きながらナルトがたどりついたのは、古くて小さい映画館だった。むきだしの階段をおりてチケットとカップ入りのメロンソーダを買い、上映中のドアをあける。座席の一番後ろに腰をおろした。 外国映画のリバイバルらしく画像も白黒で女優の格好も古臭くてしょうがない、観客はほとんどいなかった。けれど音楽だけはすてきだった。十五分で見る気がなくなったナルトは眼を閉じて、字幕をおいかけるのを諦めて音楽だけをきくことにする。エンジン音や銃声、女の悲鳴だとか、眼をつぶっていてもわかるのは多分、愛の言葉なんだろう。 しっとりした音楽と囁くような声でわかる。サクラがみたら感動するだろうか。自分には退屈でしょうがない。欠伸をしたナルトはもう寝てしまおうかと深く腰掛ける。 「寝てんじゃねえよ、ドベ」 ななめ後ろから聞こえた声に驚いた。振り向こうとする前に制される。 「こっちは向くな。コレが終わったら便所に来い」 エンドロールになれば早々に後ろの気配はたちあがる。ナルトも立ち上がって、雑居ビルの階段ホールにある便所に向かった。滑り込んで、すぐに掃除中の札を出してしまう。 洗面台で手を洗っていたサスケがなにやってんだ、お前はと呆れた眼差しを鏡越しに投げてきた。 「サボリかよ」 「サボってねえって。お前が伝令役?」 「まあな。巻物は届いてたか」 「ああ、アスマのおっさんが持ってる。ひらかねえってぼやいてたけど」 機密書類だからな、全員のチャクラがねえとあかないようになってるんだとサスケは説明をした。 「あと五代目から隊全員に伝言だ」 「なに」 「『チンタラしてんじゃないよ』」 無駄に声真似をしたサスケにナルトは笑った。 「ばーちゃんも火影らしくなったなあ。でもなんでおまえが使いッぱなんてやってんの?」 下忍でもできるじゃんかといったら、知るかとサスケは肩をすくめた。に、と唇をもちあげたナルトは近づいてサスケの手を握る。 「んだよ、お前だって知ってたら、ぜってえサボんなかったのに」 「いまさらいってんな」 フン、とバカにしたように笑うのに、あれ、とナルトは首をかしげる。 「今日っておまえ誕生日じゃね?」 言った瞬間、ナルトは首を引っつかまれる。 サスケはナルトの顎をつかむと口をあけさせ、噛みついた。それからおよそ、一分間。口元をおさえたナルトがずるずる壁にひっついて恨めしげに睨んでくるのにサスケは笑って口をぬぐった。 「サボってんじゃねえ、つったろ」 里にもどったら腰がぬけるぐらい、ガタガタいわしてやる、と悪態をつくのに、サスケはたのしみにしてるぜと笑った。 ナルトは煙になってしまったから、伝わったかどうかは知らないが。 「!」 縁日の屋台がつらなって、煙るようなオレンジの灯りが点りと人いきれ。うけとろうとした紙皿を落としたナルトが、うわあ、と奇声を上げて口元をおさえる。屋台の店員が顔をしかめてもうひとつあげようかというのも耳に入らない。 いきなり駆け出したナルトは、タバコを吸うアスマの目の前を走りすぎて、神社の階段をおり町の通りに飛び出す。花火を見ようと橋にひしめきあう人ごみをすり抜け、かき分けてようやく橋の欄干に出た。かすかな気配をたどって、視線を走らせればビニールカバーをかぶった船がゆっくり遠ざかっていく。後ろに座った見覚えのある背中に名前を呼ぼうとした瞬間、花火がおおきく音をたてて打ちあがる。 花火の赤だとか緑だとかに浮かび上がった、サスケがさぼってんじゃねえよと唇だけでいった。 アスマが見つけたナルトは欄干の近くにしゃがみこんで、まるで家を追い出された子供かなにかだ。 「伝令はどうした?」 「巻物は全員のチャクラで開けろだって。それからチンタラしてんじゃねえ、ってばーちゃんから」 「おまえな、五代目をばーちゃんなんて言ってんじゃねえよ」 恐ろしい、とアスマは首をすくめる。ラムネ飲むか、ときいてくるのに、ナルトはビールと返す。アホいってんじゃねえとラムネ瓶の底で頭をこづかれる。 「あー……ちっきしょう」 ほんとうにサボって、影分身なんかにまかせるんじゃなかった。唇には現実にはしてないキスの味が残っていて、舌の根元がじんじん痺れていた。そもそも分身だってわかって、キスするのは浮気じゃないのかどうなのか。とっととこの任務を片付けて里にかえったら即行で腰ががたがたになるぐらいやってやる。そんでぶっかけてやる。 (そんで、おめでとうって) |
「エンピツとダイヤモンド」/ナルトサスケ |
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