LOVELIFE














「ふ、ぅ……う」

ゆっくりされる方がたちが悪い。これ以上ない深みの奥をゆるゆるとこね回されて、ベッドヘッドに突っ張った二の腕が震えた。いっそのことつきやぶるぐらい乱暴につっこまれて揺さぶられた方がましだ。悲鳴に成り代ったような声でも、頭がぐちゃぐちゃになるから恥知らずだと思わないですむのに。

「……カ、カシ」
「なに?」
「……〜〜ッ」

今日に限ってひどくじれったい。はぐらかすような動きに耐えられなかった。

つながった場所の上、すこしくぼんだ尾骨のところを親指の腹で押されて、骨に妙な痺れが走る。思わず後を締めつけるとカカシの低いうめき声が背中からふってきた。

「…で、なに」
「ぅ、ん」
「だから、なあに」
「しゃ…べらせろ」
「やだよ、サスケ、色気ないこと云うんだもん」
「―――てめッ」

浮いた汗が粒になって太腿に浮いていて、ぴたりとお互いの肌が吸いつくようだ。背中にもうっすらと浮いている。首筋にはりついた黒髪を指で撫ぜて、耳の後にかけると、眠たがるネコのように顔を背け背中を丸め、腕の間に頭を入れてしまう。顔が見えない。

(いやなんじゃないよね)

ベッドのふちを掴む指が白くなるほど力が入っていることを知っている。どこが好きなのかも知っている。カカシはうつむいたほそい頤をつかみ、すこし喉仏の浮いた喉もとまで汗ばむ肌をゆっくりと手のひらで撫でた。ずるりとサスケの指先が落ちかけて、また持ち直す。全身が気持ちいいはずだ。じかに感じる呼吸の速さがかわいかった。

「とっとと…しろ…ッ」
「なんでそんなせっかちなの」
「……ァ」

驚くほど楽しげな自分の声だ。急かされてうれしい。もっと欲しいといって欲しい。張りつめてぬるぬるとしている前をいじってやると、後ろがうごめいて締めつける。突っ張った腕も痙攣するように震えた。そのほうが気持ちがいいと教えたのはカカシだ。掠れた声で途切れがちに詰られる。

「ッ、ん、…ア、…や、うご…けって」
「うごいてほしい?」
「……ッ、あ」

がくりと崩れた腕の上にサスケは顔を伏せた。胸までぴたりとつけて肩に上半身の体重がかかる、犬みたいな格好でこれは浅ましくていやだ。でももう、とてもじゃないが、自分の体も支えていられない。掻き合わせたシーツに顔を埋めてみっともない声を噛み殺す。

(たいしたこともされてねえのに)

絶えずゆるやかに押し寄せる快感はだんだんと深みを増して、ひどく体が熱い。後ろからカカシには全部丸見えだ。なさけなさと訳のわからなさに涙まで出てきた。汗まみれだし、シーツはもう湿って肌にはりつき、自分のとカカシのなまぐさい臭いが鼻について、いやになる。始まってから、どれぐらいたったのか。こんなことをいつまで。

「…、ンッ」
「これでも気持ちいいでしょう?」
「ぅ、……ッ」

上体を背中にはりつけるように倒されてぐうっと角度が変わり、サスケはこらえきれずに震えた。カカシの腹に尻を押しつけるように、体が動くのを止められない。カカシの手のひらを濡れた音で汚しながら、そのたび誘うように内臓をうごめかせる。ふいごのように呼吸が荒くなる。カカシはほとんど動いていないのに、こんなのはいやだ。こんなのはいやだ、ごまかしがきかない。流されてしまったということができない。言い訳がきかない。

「あ、ァッ」

腰骨を一掴みにされて、揺さぶられた。ぐっとえぐられて一瞬、頭の芯がまっしろになる。

「がんがんするとね、骨が当たって痛いんだよ」
「ひ……あ、ァ、あ―……ッ」
「おまえ、痩せてるし」

爪先がぎゅっと丸まった。カカシは一瞬息を詰めてこらえる。断続的に手の平に吐き出された精液をシーツで軽く拭いながら、余韻で震えているのをお構いなしに、ゆるくかき回すと細い声で鳴いた。もうほとんど声にもならず、息に近い。ろくろく力も入らないらしく、成すがままなのが、いかがわしい人形のようだった。

「もうちょっとね」
「…や、も、で、きな」
「でも気持ちいいでしょ?おまえも好きだろ」

首を振るのに苦笑する。ほんとうにこの頑固はどうだろう。泣きながら睨まれると罪悪感とおなじだけ、意地でも言わせたくなるのは問題だと思う。一回体を離して、骨ばった体をひっくりかえした。

「なにがそんなにやなの」

最悪だ、この男。言うにこと欠いてそれを尋ねるかとサスケは思う。羞恥で消えてなくなってしまいたい。

「お…ッ」
「お?」
「女みてえにすんな……ッ」

ねちねちねちねち、こっちが遠慮するほどの手つきでさわられるとどうしたらいいのかわからなくなる。挙句、自分ひとりで先にいかされてしまうし、もう、今晩は最悪だ。本気で涙が出てきた。

「…………」
「……ぐ、ァッ」
「あ。痛かった?悪い、ごめん」
「い、きなり、つっこむな!」

う〜と唸りながら、呼吸を整え、サスケは顔を両手でごしごしとこする。その両手を顔からはがされると、間近にカカシの心底なさけなさそうな顔が合った。

「あした目腫れるから、そんなこすらないほうがいいよ」
「……氷で冷やす」
「女みたい、ってねえ」
「だってあんた、」

まだいってねえだろ、とぼそぼそと言われてカカシは苦笑する。そんなに若くない。耳が熱い気がするのは気のせいだろう。一瞬、とてつもなく恥ずかしい告白を聞かせてもらった気になったのだが、癪だから言うつもりはない。こんな子供に、と思って、いつもこんな子供だから、と思う。やさしくできたらいいと思うのだ。

「あんた、我慢とか」
「してないよ。べつに。大丈夫、ぬくいし、気持ちいいから。おまえだって痛いのやだろ」
「そりゃ、痛ぇけど」
「それにさっき言ったけどね、骨があたって痛いんだって」

どこの、と訊いてサスケは後悔した。

「〜〜ッ」
「な、痛いだろ」
「……ッ、っ」
「あれ?」

顔を背けて、シーツに鼻を押し付けるサスケにカカシは首を傾げた。
ふと体の間に目を落として、カカシはにまにまと笑う。物覚えのよい生徒と正直者は好きだ。電気をつけていなくてもわかる。元気だ。ほんとうに、二人とも。

それに両方気持ちいいほうがいい。

いかにも最低限、産毛みたいなのを掻きわけて包むと、やっぱり熱をもっていた。半ばなのをゆっくりと育てあげていく。体がどういう仕組みをしているのか、もっと知るのは大事なことだ。

料理と同じだ。下ごしらえが大事、ひとつひとつまんべんなく味が染みるようにしてから、火にかけていく。たとえばそれは些細なことで、ほんのすこし切れ目を入れたりとか、面取りすると煮崩れないとか、皮をもう一枚むけば柔らかいとか、水にさらせばあくが抜けるとか、おいしいはちいさな思いやりの積み重ねでできている。

「女扱いなんてしないよ」
「……っ、っ、んッ」
「それならおまえに手なんて出さないよ」

きっと自分は満面の笑みを浮かべているだろう。サスケは体の先走りに何がなんだかわからない顔をしている。髪をかきあげてこめかみに唇を落とす。すこし涙の味がする。まだ頬の線はまるく、産毛が浮いている。すべって耳を唇で挟む、軽く歯を立てるとまた鳴いた。ほんとう、なるたけやさしくできたらいいとおもう。真綿でくるむように。

料理は火加減も大事。煮物だったらいったん冷やして味をしみこませる必要もあるし、おでんの場合はふたをずらして吹き上がらないぐらいのとろ火が大事。たまごとおとうふは別のナベで煮ると失敗しない。強火にしろ弱火にしろ、味がなじんで一番おいしい瞬間を逃がさないように食べることはとても大事。

鎖骨に苦労しながら噛みついて、喉で笑った。耳の後に鼻を押し当てて、汗ととっくに薄れた石鹸の匂いをかぐ。ああ、もう限界だ。黒絹の前髪を手の平であげて、形のよいおでこに額をおしあてた。息が上がっているのも、汗ばんでるのもわかるはずだ。

「ちゃんと俺も気持ちいいから、大丈夫」

焦らないわけじゃない。食べ時を狙っているだけだ。
なるべくなら皿の隅からすみまできれいに、のこったソースもパンで拭って食べるのがいい。
空っぽのお皿は見ていて気持ちがいいものだから。

















「LOVELIFE」/カカシサスケ




焦らす先生。
エロだけが書きたかっただけなんです、
それだけなんです。
それだけなんです(リピートアフタミー)。











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