右か左か、東か西か。
小さな手のひらを握って、どうすればいいのかがわからない。

















堪えきれずにサスケは肩口に額をすりつける。かすかにタバコの匂いがした。

「・・・・・・ん、ぅ」

腿の内側がふるふると引きつった。
夏でもないのに、太股や脹脛から汗が滴を結ぶなんて知らなかった。
よりによって生徒に、しかも男に、何てこと教えこみやがる。ほんとうにろくでもない。
朦朧とする頭の隅で、罵ってもすぐにかき乱された。泣きが入り音を上げるのはいつもサスケの方だ。

「……あ、も」
「まだ」
「や、……できね…」
「もうちょっと」

ぬるりとなぞられて背筋がぞくぞくとわなないた。舌で舐めるような濡れた音がするのに目眩がする。下腹のあたりにカカシのがあって、布越しにでもはりつめているのがわかった。ごくりと唾を飲み込んだ。いままでこんな焦燥は知らなかったから、身体の先走りに慣れずにいつも戸惑う。

「ん、……ぁっ」
「……」

くすりと笑われた。わずかに目を据わらせるとなだめるように頬を舐められた。

「な、に、考え」
「んー?そんなのひとつでしょ」
「ぅ、ふ……っ、あ」

ふざけた口調ははぐらかすくせに、手つきはゆるまない。こういうとき、カカシはひどく楽しそうだ。

手酷くされてじゅくじゅくと爛れたような感覚さえある。逃げたくなるほどなのに、追うように手のひらに擦りつけて、サスケは詰めた喘ぎを零す。

ピンク色の先端を潰すようにされると、もう駄目だった。怯えるのを、腰に回された腕が許さない。

「や……ッ、ン、ぅーっ」

背中に回された指がぎゅうっと布をかき寄せ、小さな背中が小刻みに震えた。しがみつかれる格好で何度も荒い息を吐くのに、空いた手で頭を撫でる。それですら、腕の中でサスケは小さく息を乱す。

いつものことなのだが、こんな相手に何をしようとしてるんだかね、とカカシは笑う。

こうやって膝の上にやすやすと乗せられるような相手だ。抱っこ、といったほうが正しい。

「ほら、力抜いて」

股の間から、付け根のうすい皮膚をたどって濡れた指を滑らせると、しろい肢がひくりと震えた。まだ余韻があるのか瀝青の眸をふせながら、肩に置いた手に力を入れ、わずかに腰を上げる。

まだ産毛の浮かぶ頬を淡く染め、目元にただようサスケの羞らいにカカシは眼を細めた。きっといまの自分は、さぞ機嫌よさそうな顔をしているだろうなと思う。

(虫がいるなぁ)

壁一枚向こう側の気配を教えてやったら、この子はどんな顔をするだろう。
怒るのか、恥らうのか、感じるのか、どちらにしろ止める気はさらさらないから、楽しめそうだが。

「っ」
「ゆっくり息吐いて」

肩口を温めるタイミングに合わせ、サスケの残滓でぬるつく指先を沈めると、わずかに強ばるのがわかった。眉根を辛そうに寄せている。構わずきつい入り口を通り過ぎれば、熟れた内部が柔らかく迎えいれるのを知っている。

(正確に言えば熟らしたか)
「……なんだかねー」
「……んっ」

すっかり憶えたいいところを掠めるようにすると、とたんによさそうに鳴いて、身体を揺らす。名前を呼ぶと、とろりと溺れた眼がふしぎそうに見上げてきた。

ほんとうになんなんだか。
……いたずらを仕掛けたくなった。

「締めてみ」

耳元に落としこんだ言葉に、酔ったような眼が驚愕にみひらかれ、一気に羞恥と怒りがひらめいて、ぞくぞくする。やっぱり正気が残ってたほうが愉しみがいがある。

監視する視線にまじった発情の気配を悟って、カカシはますます笑みを深くした。

「な、に」
「簡単でしょ、ほら」
「で、きるかっ……、アッ」
「ほら」

また熱を持ち出したのを弄くってやれば、大げさに震え、応えるように中がくちゅりと指を締めつけた。指先ひとつで鳴いたり、叫んだり、これはなんだろう。

「……や、ァ、ア」
「ゆるめて、すって、そう」

できるじゃない、と笑いながら、指先で感じる砂が水を吸いこむみたいな物覚えのよさに嬉しくなる。そしたら睨まれた。

「……っのクソ教師、ア」

きりきりとサスケは睨みつけて、噛み殺す合間から必死で悪態をつく。生き物みたいに指が動くたびに、高い声が出て身を捩ってしまう。力の抜けた足から下はどろどろに溶け出すようで自分のものじゃないみたいだ。

「ほんとに優秀で嬉しいよ」

笑みに紛れた、おもわぬ本気の響きに虚をつかれ、一瞬あっけにとられた。

「……ぁ」

ぬるんと指が抜かれる拍子に擦られて、必死でしがみつくのに笑われる。下からあてがわれるのに鳥肌が立つほどぞくぞくした。怯えではなく、期待だなんて認めたくない。

侵入してくる男のつきつける欲望が、嬉しいなんて終わってる。

(くそ)

そのあとからは、もう、まともな思考にならなかった。















「やだぁ……っ」

ぱたぱたと涙の粒が落ちるのをカカシは笑って見ている。

木の葉いちの大事な大事な血族の子が、先に繋がらない交わりに溺れるのはさぞ不安だろうが、これを見てどう耐えろというのだろう。

悪趣味だと思うが、愉しくてたまらない。世界がこの部屋だけで終わってるような気がする。ひくひくする喉を舐めて、涙を吸ってやると小さく喘いだ。

「やだじゃないよ、できるでしょ」
「や、むり、あ、……ァッ」

この期に及んでせぐり上がるのを堪えようとするから、揺さぶることで引き戻す。教えたとおり、締めつけるのに合わせて腰を落とさせると、粘膜を強くこする感覚がたまらないのか、首を振って鳴いた。

「ほら、動いて」

促がすようにささやけば誘われるままに、がくがく震えるほそい腕をようやくに突っ張って、腰を揺らめかす。のけぞった背筋を指でたどるだけで、こまかく引きつるのがよかった。抑えることもできなくなった声にまぎれて、粘った音が一定の間隔で響く。

こめかみに何度もキスを落とすと、せがむような目をするので唇を塞いでやる。

「ふ、ん…ぅ」
(なんなんだかね)

身を摺り寄せるようにして鳴くのを見てると、後ろめたさもわかない。
こんな顔して、中は何よりも熱く蕩け、貪欲に快楽を搾り上げて、いまさら子供だといわれても。

「ねえ?」
「ぁ、…も、カカシ」

きつそうに息を切らせ、責めるような眼にカカシは右目だけで笑う。

(こんな時だけ名前呼ぶの、反則でしょう)

それに免じて、かなり楽しみだったのだが、うるさい虫のことは教えないことにする。手練手管を教えたつもりはないのだが、虫はもう夢中のようだ。せいぜい指をくわえてみていればいい。

いつもは倣岸といっていいほどなのに、この格差はなんだろう、この目眩はなんだろう。貪欲で正直だ。せがむ顔を見せつけて、自分のものだといいたいような、あるいはふかく閉じ込めて、自分ひとりで愛でたいような。

そうやって満たされるのはなんだろう。

「サスケ」
「ぃ、あっ、……あっ、やぁ」

呑みこまれて、滑りおちかけた小さな手を握り締める。

抱きよせて、進むべきは西か東か。
そもそもこの子がついて来てくれるのかもわからないのだけど。

老獪な里長の黙認はいったい何を意味しているのか、さすがに読み取れはしない。

(こんなはずじゃなかったんだけどなぁ)

気まぐれで手を伸ばして、今ここはどこらへんなのだろう。

(攫さらって手を繋いで歩いて、振り返るのを許さないで)
(不帰かえらずの途をたどって?)

胸の奥底におちたざらつきには見ないふりをした。
あり得ないこと、なし得ないこと、無駄なことは好かない性分だ。

反吐が出そうで、笑みが深くなる。選択肢にもなりはしないことを知っている。同じだけの貪欲さで絶対を追いかける背中を見る。想像ではない。たしかな未来だ。

細い声でせがむ子供の今このときだけの望みどおり、高みまで引き上げてやる。何も見ないで縋りついてくる。指先ひとつで死んでしまうことを本当にわかっているのだろうか。この腕の力は信頼だろうか依存だろうか。答えはありはしないのだけど(欲しいとも思わないのだが)。

(まあ、いまはこれだけで)

八つ当たりは承知しているが、とりあえず。

職務を忘れた虫の退治はしなきゃなァ、と呟いて、男はひとり喉を鳴らして笑った。




















「ONE WAY TRIP」/カカシサスケ







エロ教師の本領発揮してみた(逃亡)!
基本的にうちのカカシ先生は夢見がちです。愛の逃避行。
三代目が生きてらっしゃる頃の設定だけど、何巻ごろだろ。
お母さんが後ろにいた!うわあい!











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