「よせ」
「どうして」
「…やべえんだ」

すこし泣きたいのを堪えるような顔をしているのに、掌を熱をもってしめった頬に当てれば伏せた睫をすこしだけ揺らした。わずかににじんだはにかみに指が震えそうになる。しめった空気に息苦しさを感じながらカカシはサスケの顔を覗き込んだ。

猫が懐くように額をカカシの首元に押し当て、サスケが長く細く息を吐く。

「別に、こうしてくれてるだけでいい」
「ちゃんと言っておくけど、オレそういうのも込みでいいっていったんだよ。気持ち悪いとか、そんなんはないからね」
「わかってる。だめならだめって言うだろ。あんた変なとこで真面目だもんな」

笑うサスケにカカシは心外だなあとすこし笑い、髪の毛に指をさしいれた。まだすこし小さな頭蓋を掌でなでおろすと、指先が耳の後ろの窪みに当たる。おさまりや存外にやわらかい髪が指の間をすべるのが楽しくて撫でていると、サスケの体が震えた。くそ、と悪態をついてる。

「なに、不機嫌になってんの」
「あんた、楽しんでるだろ」
「まあね」

間近で目が合う。目を閉じたサスケは幾度か躊躇うように口を開いた後、息にまぎれそうな声でキスがしたいと呟いた。その瞼に唇を寄せれば首もとを引き寄せられた。

幾度かためすように唇だけを重ね、鼻を擦りあわせて動物のようなことをする。唇で唇を挟むとサスケのきつくしかめられた痛みをこらえるような眉がほどけ、ためらいがちに舌が入ってきた。迎え入れて軽く噛むと、ぶるっと身を揺らした。

抱き寄せられるのに腕がおさまりのいい位置を探して腰に回る。ひきよせた腹にあたったのに、カカシがすこし驚くとサスケがうめく様にはき捨てた。

「だから、やべえっつってるだろ」
「…いや、ちょっとびっくりしただけ」
「うるせえ。あんたと違うんだよ」

カカシの両目を見据えたままでこぼす熱っぽい、すこし掠れた声はあんたが好きだと言ったときと同じ声だった。くそ、とまたはき捨ててカカシから体を離そうとする。

「……おい」
「なに」
「放せよ」
「なんで」

言わせるつもりかてめえ、と耳まで赤くなる。なのにキスをすればすこしため息をついて答えてくるのがいい。甘やかされ放題だな、とカカシはすこし嬉しくなってしまった。そろ、と背中をなでるとぴくりと身じろぎをする。指先を背中のくぼみにそって這わせれば唇がわなないた。

「…よせって」
「触らせて」
「……」
「触っていいから、べつに」

まずい料理を食わされておいしいかと尋ねられる子供みたいな顔をしている。失敗だったか、とカカシが思っているとサスケの形のよい眉がすこし顰められる。

「さわりてえのか?」
「うん」
「でもあんたは触られても」

たたねえだろ、といわれるがカカシはすこし笑う。

「ちょっと、まだね。ごめんね」

この先ずっとだめかもしれないのだ。そうなればサスケだって辛いだろうし、きっと自分もいたたまれないだろう。頬に口づけをすると両腕で抱きしめられた。うすく汗をうかせた肌をなでると、どこか痛みを堪えるような顔をしているけれど、潤んでいること、たまにキスを欲しがって唇を渇かせていること、触れてるだけでわかってしまう。

(なんでそんな、オレのこと好きなの)
「く」

あー、なんかドキドキするというとすこし辛そうに、でも笑ったサスケがキスをしてきた。シャツをゆっくり背中からひきだして触ると、おなじ三十六度前後なんてしんじられないくらい熱いし、しめっている。しまったわき腹をなで、肋骨をなでながらゆっくり指先をおろしていくと、じんわりと湿った熱が指先にあたった。

「ぅ」

脱がしていい、とききながらゴムを潜って指先を忍ばせる。人差し指と中指で挟むようにすれば、掌にぬめった感触がした。指先につたいおちていくのをゆっくりかきまぜると肩口にうまったサスケの額がますます押し付けられた。

「あ、く」

もう一方の手で女の子にするように胸のまんなかを掌でなであげながら指先をのばす。とがった感触が指先を弾くのゆっくり、押しつぶした。ぴく、とサスケの性器が動く。

やべえ、と切羽詰った息になにが、と尋ねる。口をひらいたサスケは、また動いた指先に口をつぐまざるをえなかった。これ以上触られたら出てしまう。

「ふ…ッ、う」

頬に口付けられるのがうれしくて顔を傾ければ、ゆっくりとすべったカカシの唇が唇にかさなった。啄ばまれて、舌先がゆっくりと舌の横をなぞってくる。サスケの唇が震えた。

「ン、ん…ッ」

びくびくっと腕の中、サスケが膝を震わせた。掌のなかひろがったぬるみにカカシは驚く。あんまりあっけない。は、は、と短く息継ぎをしたサスケはきつく目を閉じ、余波にゆさぶられているようだった。

「…わるい、汚した」

直い睫があがってカカシを見ると、すぐに伏せられる。どこか熱っぽく泣きそうに掠れた声にカカシは首を振って、こめかみのなめらかなところを舐めた。汗と土みたいなサスケの匂いがする。

「なんで謝るの」

そげだしたばかりの頬の線、まだ未完成な骨ばかり伸びた体は若木のようだ。簡単に熱をもてあまして、溢れる。傷もすぐ小さくなってしまう。

(まだ、おまえとこうしてるなんてよくわかんないし)

カカシの肩に置かれた手は握られたままで、自分から触るのを許してもらえるのを待っている。怖がって足踏みをして躊躇ってばかりいた。今も躊躇っているのをわかっているから、サスケも躊躇っている。

十年後、この子のそばにいるのは誰だろう。こんなに体も心も直向きな愛情をうけとめる、きっと自分ではないだろう誰か。自分よりずっと上手に抱きしめられる誰かは。

(そんな声で)
「謝んないで」

痛みすら感じないぐらい優しく、でも手ひどく傷つけてしまいたくなる。






「Say it isn’t so」/カカシサスケ






恋人になりたての時ぐらい?
男相手にたたない先生に萌えてます。
三ヵ月後ぐらいにたつんです。












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