夢をみて泣きながら目を醒ました。夢をみながら有り得ないとおもって泣き出したオレの体に目が覚めたのだ。

オレは思い切り泣いていて、隣の布団でねているサクラちゃんが起きてしまったことがわかって必死になって喉で嗚咽をこらえたけれど、涙はどうしようもなかった。おさえつけた手のひらをぬるつかせて溢れて襟元や枕を冷たく冷やしていって、いい加減泣き止めと思うたび、向日葵の影にちらついたサスケの笑顔が瞼の裏にゆれて、でも声を、オレをドベとかウスラトンカチだとか散々な呼称でいった声を、思い出すことが出来なかった。

向日葵畑になんていったことはなかったし、オレは満面のサスケの笑顔なんてものを見たこともなかった。これっぽっちも。誓っていえる。でも光の入りすぎた写真みたいにオレが見た夢はありふれてあたりまえに幸福にすぎて、夢だってわかっていてもバカみたいに大泣きしてしまっていた。

ときどき夢にでてくる三代目のじいちゃんは思い切り優しく笑っていて、心配ないよとオレはうまくいえたかどうかも分からない。もしこれが本当に三代目のじいちゃんが見せてくれた夢なら本当に、どんなにかすばらしいことだろう。自分を真実、案じてくれた人にもう大丈夫だよと教えてあげられること、教えたことに輝かしい笑顔をみせてくれること。

オレはもっと、三代目のじっちゃんにありがとうとか、クソジジイとか、大好きだとか、あたうかぎり伝えたかったのだ。失ってから気がつくなんてばかすぎる。

サスケにだってそうだ。もっとオレはサスケが知りたかったし笑いたかったしケンカもしたかった。オレの一生からサスケは欠くべからざるものなのだ。サスケがいなくなったら致命傷になってしまう。傷を抱えたまま走りきることなんて出来ない。理屈なんてよくわからない。

ただオレがわかっているのは、サスケがいないオレの一生はサスケがいる一生とは劇的にちがうだろうことだけだ。オレの手はまだすべてをなくしたわけじゃないし、サスケもオレも死んでない、だからオレは走るのだ。走ることをやめてしまったらオレの足あとはこれから先一度だってサスケの足あとと並ぶことはないだろう。

世界は狭い。だけどやっぱり広いのだ。触ることができないものを信じ続けることは難しい。

ほんとに兄貴を殺したいのか。兄貴を殺すためなら死んでもいいのか。 オレにはお前が心底、兄貴を好きだったんだろうなってことぐらいしか分からない。 なにかにつけ、どれだけ輝かしい時間を幼いサスケが持っていて愛していたんだろうということしかわからない。

だったらもっと、幸福な、ばかみたいにありふれた結末にオレはたどりついてほしい。オレはたぶん自分が一人だったから家族って装置に夢を見すぎてる。わかってる。でも恋人達は微笑みあって、家族は愛し合い手を繋ぎ合う、子供は笑って世界は限りなく美しい、オレはそう思いたいし、信じたいのだ。オレの手にはいらなくたっていい。手にはいらなくたって、オレ以外の誰かが持ってるって証明してくれれば、いつかオレも家族は愛し合って世界は美しいって心底から思えるかもしれないじゃないか。

オレは世界がたしかにやさしくうつくしいものだと明らかに証明してほしいのだ。

だってサスケが、オレは小さいころから心底うらやましくて妬ましくて、嫌いになりたいくらい大好きだったんだ。あんな奴が幸せになれないんなら、誰が幸せにふさわしいんだろうと思ってた。

昔はそう思っていた。オレはそろそろわかってる。サスケは幸福になる才能ってものが決定的に欠落しているのだ。

子供のオレが不幸だったのはオレのせいじゃない。幼いサスケが不幸だったのもサスケのせいではない。けれど人生のある部分には大きく本人の才能がものをいうにちがいない。オレはなんとなくオレの幸福をうたがったことがない。なんとかなると思う。最初からもっていないことにも気がつかないことと、すべてをもっていて取り上げられること、どちらが残酷かなんて他人事の思い出になってから言えることだ。

オレはそうして心底、サスケを哀れんだ。悲しかった。考えると涙が出た。

ちいさくて泥まみれになったオレの見あげていた憧れが、どうしようもなく目の曇ってしまった愚かしい奴だったこと。だけれど確かに優しさややわらかさを持ち合わせていたこと。けれど目の前のあたたかい何かを手放してしまうぐらい強く愛することや憎むことをしっていること、しってしまったこと。オレを殺そうと躊躇いを捨ててしまえること。

向日葵の影で笑う、顔をみたことがなかったわけじゃないと不意にきがついた。それは終末の谷で戦ったときに垣間見たサスケの思い出の中の笑顔だった。思って、ほんとうにかわいそうな奴だと思って歯茎がいたむぐらい嗚咽をこらえた。

でも確かにオレを友達と呼んでくれた。
















「あなたが笑う」/ナルトサスケ





ナルトはサスケが大好きですよねという。
リハビリ的に書いたので短い。

→「006:ポラロイドカメラ」












TRY !

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