口笛ふけば










サクラちゃんは俺らの傷を治し終えたとたん、血まみれの両手で目の周りを擦って、深呼吸をした。チャクラがきれて痺れたように震える手で口元を押さえるとひとつ、しゃっくりをして、堰を切ったように、まさしく決壊と言っていいぐらいの勢いで泣き出した。哭泣の文字通り、産声にも似た赤ん坊では持ち得ない、どうしようもない深さの怒りと悲しみと、安堵の叫びだった。

サクラちゃんはいつだってオレとかサスケとかに振り回されて、知ったかぶりの置いてけぼりを食らわされ、いつ我慢の限界をむかえたっていいのに見捨てもせず、宝物にしたくなるような緑硝子の眼を36度より熱い涙でいっぱいにする。だけど零したのをオレがみたのは、サスケが里抜けをしたときだけだった。

二年半ぶりに里にもどってきたら、すごいかわいくなって、そんですごいかっこよくなってた。昔より優しいのに昔よりずっと強くなってた。大事なものを胸にきちんとつかまえた強い顔をしてた。

なのに今、嗄れきったもっとひどい声をあげて泣いている。両手を口元に当てて、ムリに我慢しようとするせいでもっと呼吸がつまるみたいな声、心底泣きたくなんてないのに、どうしても抑えられないそんな。手首をかんで丸まってしゃがみこんで、華奢な背中が震えてる。なのに俺は怪我のせいで起き上がれない。手のひらをにぎることができない。ばかやろう、なにやってんだ、ばかやろうだ俺もサスケも。なんでサクラちゃんをこんなしんどい泣かせ方してんだよ。カカシ先生にみられたら絶対半殺しだ。半殺しでも生ぬるい。

世界中で一番、幸せで笑っていなくちゃいけない女の子にこんな泣き方をさせるバカは死んだほうがいい。だけどバカが死んでも優しいサクラちゃんが泣くので、死ぬなんてなんの問題の解決も反省もなく簡単なことでおわらせちゃいけない。



(そうだ俺は死なない)



瞼をもちあげられ、ペンライトの強い光が目の中をかきまわす。思わずとじようと顔をそむけると咳きこんだ。喉が痛い。

「起きたか」

しゃべろうとしてなお咳き込むのに顔の前で手がふられた。首筋から頭を幾度もさすられる。耳のちかくで聞き取りやすいよう大きい声をだしてくる。誰はわからない。影しか見えない。

「しゃべんなくていい。起きてるか、わかるか、ナルト」

ゆるく肯くと手の中になにかを押し込まれる。

「…いてえ」
「ああ、痛いだろ、でも心配すんな、おまえは大丈夫だ。人手がねえんだ。これ、一、二、三、で押し続けてくれ。いいか、一、二、三、だ」

いいな、と言い聞かせられるのに肯いて、今にもぬめる手から落ちそうになる、たぶんポンプのようなものをゆっくりではあるが握ってははなす。半分もあかない目を動かす。むき出しの携帯電灯がオレンジににじむテントの中だ。血の匂いと慌てたざわめき。処置にうめく声。自分のうめき声もまざっている。

手のなかからのぞいたチューブの先をたどると、生理食塩水と血であかくにじんだ包帯のすきま多分喉からはいって気管にまでつっこんであるんだろう、呼吸がうまくできない、ナルトより瀕死の奴につながっている。ナルトの手がゆるんだら、息がうまくできなくて死んでしまう。人工呼吸器なんてものがないのだ。

痛え痛え痛え、マジでいてえ。なにが起こってるんだちきしょう。医療班はなにしてやがる、とかんがえて思い出した。

(そうだ)

サクラちゃんはどこだ、と考えて全部思い出した。飛び交う声の一つ一つを耳が拾い上げて、形を作り出す。任務は失敗した。死者1、重傷者1、行方不明者が1。死んだのは先頭をはしっていた奴だった。破裂音と同時、轟音と閃光にまどわされ横合いからいきなりきた攻撃に蜂の巣みたいになって死んだ。重傷者はいまナルトの横で包帯まみれの奴、行方不明はもう一人。医療忍者。だから班の全員がこんなことになってる。



(サクラちゃん)



ぱん、と目の前で手の平を打ち合わされて瞬きをする。なんだ?

「おい、大丈夫か」

目の前にいたのはサスケだった。モルヒネをがんがん打たれてるから痛みはないけれど、頭がぼんやりしてぐらぐらする。吐き気もだ。まずい、壊れたCDみたいに記憶がふっとんでつぎはぎになる。やけに蛍光灯がしろいここは里の会議室だ。窓の外は夜だ。いつの夜だ?机からたちあがって出てく連中がいるってことはもう終わったんだろう。なにはなしてたんだ、ちっともわからねえ。

無理すんな、といったサスケは手の中にもってた紙をおしつけてきた。報告会の資料に赤でたくさん補足がいれてある。多分オレが朦朧としてうまく聞こえないことをわかってたんだろう。でも出るなとは言わなかった。言ったって聞くような奴じゃないってことを、自分とおなじだからサスケはよくわかってるんだ。

俺らの任務は、山岳地帯にある街道をとおりぬける商隊の護衛だった。むかしから山賊がでることで有名な場所だけれど、国境線にちかいことから火の国もむかいの風の国の緩衝地帯にあたっていて、どちらが保護するかしないかでもめているらしい。傍迷惑な話だ。山賊も忍び崩れがまじっていたりと性質が悪くて最悪だった。

だけどなにより最悪だったのは、街道の関所をまもる役人だったんだ。 役人と山賊がくっついていたのだ、つまりは。山賊のせいで山岳地帯をとおりぬけた商品の値は当然つりあがる。つりあがれば役所の収益は増える。しかも山賊から賄賂をもらって懐をあたためてたっていうんだから最低だろう?

もちろん役人と山賊がくっついていたのに気がついたのは、俺らの班がぼろぼろになったときだった。襲い掛かってきた奴らに見覚えがあったんだ。忍の上申は大名へといったことだろう。役人は首になるにちがいない。でも問題はそこじゃない。クソ役人なんてどうでもいい。行方不明のサクラちゃんだ。数日降り続いていた雨でゆるんでいた地盤に爆発は最低だった。土砂崩れをおこして、いくつかの集落への道も閉ざされている。

「いまから三時間後、朝五時に救出部隊が出発する」
「オレも行く」
「ばか、できるわけねえだろ。オレもはずされてる」
「…なんでだよ!」
「おまえは怪我がひどい。オレは、里抜けの一件がある」

サスケの唇が噛みしめられている。めちゃくちゃ後悔してる顔だ。

ちきしょう、なんで何もできねえんだ。モルヒネを打ちまくってるせいで痛みはないけど体は重い。がちがち振るえだしたオレの顔をサスケが覗き込む。

「大丈夫」

答えてびっくりだ。だけどもう一度重ねる。「大丈夫だって」大丈夫?なにがだ?どこがだ?

大丈夫だって。オレはしょっちゅう口にしてた。

なんでか?ダイジョウブって口に蓋をかぶせてやんないと、夜中とか街灯の明かりが蛍みたいに光っててもそのまま寝たら死んでしまうくらい冷たくて寂しいところでどこにも行けない帰れないみたいな気分になってしまうからだ。自分のためただいまをいって開くドアがない、そんな。

だってサクラちゃんが死んじゃうかもしれないなんて、もう二度とあえないなんて。

想像すらしなかった、だってあんまりひどい話だ。一度だけど多分特別なんかじゃない、そんでありふれてる自分の人生で本当にひどいことが起きるなんて、思うわけないじゃないか。いつもそれなりに楽しくて悲しくて辛い、だけどサクラちゃんがオレらの人生の途上で消えてしまうこと。あんなかわいくて明るくて強くて、そんで、オレらよりよっぽどしっかりしてる素敵な女の子が花びらをむしりとるみたいに死んでしまうなんて惨いことがあっていいのか?許されるのか?まかりとおるのか?なんだよそれ、有り得ないだろ。現実って世界って、そんなにひどいのかよ。そんなん、許せるかよ。

イルカ先生はオレに言ったんだ、どんな子供だってしあわせにならなきゃいけないんだよって。なんでって訊いたら、だってお前らが幸せになれないんなら昔子供だった大人はどうすればいいって言ったんだ。それは自分本位の台詞で、でも子供の幸せイコール自分の幸せなんて嘘くさいほどキレイキレイなものじゃないだけ、イルカ先生のしっかりした結論なんだってわかった。

だからサクラちゃんは、だってそうだ、あんな真っ当で一生懸命オレらみたいなバカ二人の手を握って泣いてくれる素敵な、ハッピーが一番似合いの子じゃないか。じゃなかったら、オレは幸せになれない、サスケもおなじだっていうこと、それが絶対の現実ってことをオレはわかっていた。

がちがち歯を鳴らしてオレは舌を噛んでしまって、大丈夫だってが言えなくなる。痛いと呟いたオレにサスケが眼を上げた。

「…おい」
「ん」

すこし冷えた、けれど空気よりずっと確かな体温、呼吸の熱が肌に触れて、震えて鳥肌だった頬にかさついたサスケの指の背が当たる。雄弁な体温と眼差し。

サスケはいつも言葉じゃないものがいろいろ語るから、余計なものに気をとられると見落としてしまう。だけどどうしようもないときに限ってまっすぐ飛び込んでくる。言葉できかれたらなめんなよ、としか言えないけど言葉でなんかサスケは言わないから、なめんなよがいえない。

大丈夫って笑おうとしたとたん、つられてゆるんだ蛇口みたいになった目から涙が一直線にすべり落ちた。眼から落ちるだけじゃ足りなくて、鼻にも流れてオレはあっというまにぐずぐずになる。

「…だいじょぶ」

背中を拳でどんと叩かれて息がつまる。

「バカ、泣いてンな」

囁くようにおとされた声が、かすれて潤んでいるのに胸がつぶれそうだった。喉をなにかにおしつぶされたみたいに咳きこんで息をはいた途端、鼻にながしていた涙がもうどうにもならなくなって、頬をすべり落ちていった。

壊れたサイレンみたいなうめき声が喉からもれて、涙が拳をぬるぬるさせながらどんどんあふれる。しまいに咳きこんで、しゃっくりがでてきておさえようとすれば喉がもっとつまって、また咳きこんで泣いた。背中におかれたサスケの手を掴まえる。泣くなよ、と小さく声がしたのに首をふった。掴まれた手がしろくなるほど握りしめて、お互い力を入れすぎで震えている。そこにいくつも冷たい雫が落ちていった。

子供みたいにぼろぼろ泣いた。

あんまりひどくオレは泣いたので、過呼吸になった。オレの口元をサスケの手がおおって、一緒に深呼吸をしてくれた。

だいじょうぶか、と訊かれる。

大丈夫。何度もいいながら涙は不思議と止まらなかった。

なぜだろう、オレは大きくなってからのほうが泣き虫だ。理由はなんとなくだがわかっている。

一人ぼっちだって思ってたころ誰かがいるところで泣いたりなんてできなかった。オレは昔、泣くこともろくろくできない本当に心底かわいそうな子供だったのだ。ことさらに声をはりあげて悲しみを怒りをあらわす、単純なことができなかった。だって誰ひとりオレのそばにはいなかった。かわいそうね、くやしいね、がんばろうね。いつでもそれは独り言でしかなかった。

でもオレはほんとは誰かと一緒に大声で泣きたかった。笑いたかった。おはようもおやすみも言わない日は、まるで自分が空っぽの箱みたいな気持ちになって、死にそうな気持ちになる。でも死にたくなんてない。だって惨めなままで死んだら、負けじゃないか。

独りでもひとりぼっちじゃないんだって言って欲しかった。

生きることは多分、夕暮れにひびく口笛みたいにオレの涙がたしかに温かく冷たくなるのだと誰かが知ること。誰かが知って、うろ覚えに口笛を吹くこと。

その口笛の音がオレが死んだあと、オレの口笛に応えた奴が死んだあと、うろ覚えの誰かが教科書にのせて、夕暮れにひとりぼっちの子供の耳に届くこと。いつかその子供が唇を尖らせて、メロディをつむぐこと。夕暮れにずっと響く口笛だ。 

口笛はハンカチじゃないから子供の頬をぬらす涙をちっとも拭けないし、涙も乾かない。独りであることは変わらない。

でも口笛のフレーズを追いかければ涙はちょっとだけわすれることができるだろう?メロディを奏でるうちに悲しい気持ちの片隅に、メロディがいいなあと思う気持ちがうまれるかもしれないだろう?ジャズみたいにかっこよくしようかなって思うかもしれない。泣いてる友達に教えてあげたら、ちょっと笑うかもしれない。

後姿が瞼の裏にほんのすこし残るだけであっけない小さい、だけどちょっとだけジャンプできるようなジャンプしようかなって思える優しい、そういうものがオレは欲しい、口笛を吹いてあげたい。夕暮れの友達のため。ひとりぼっちじゃないって、生きることって多分そういうことじゃないのか。

横合いから伸びてきたサスケの手がオレの頭をつかんで、いっかいぐしゃりと髪の毛をかき回し涙から掻っ攫うよう引寄せる。なにすんだ、と言おうと思ったけれど、サスケの手のひらが震えていることに気がついてやめた。小さく歯が鳴る音もしてる。

とたん、どうしようもなくなってサスケの手のひらを捕まえて、手のひらに唇を落とした。温かい。自分の息が顔の皮膚を温める。しめった熱にまた瞼が熱を持つ。いやだ、消えるな、冷えるな。

息をつめたサスケはそれでも手を振り払ったりしない。首をかたむけてオレの瞼にキスをする。なあ、と掠れた声がもれた。多分間違ったことを言おうとしている。しようとしている。

ばちん、と電灯がおちた。主電源がおとされたんだろう。夜が落ちてくる。

「やめろって、いえよ」

いいながら唇をもう一度ふかく重ねた。「やめろっていえよ。間違ってるって、サスケ」

なのにサスケはそのままでいるものだから、あってなかったような理性はぶっとんで寂しがりはオレの皮膚をつきやぶって飛び出してしまった。気づくとオレはサスケとやってた。

痛くてちっとも気持ちよくない。サスケもそうだろう。きついだけで動けない。喉がからからに渇く。きつくとじたサスケの眦から涙がおちる。ばらばらと散らばってオレの涙がまた落ちる。熱くてうまく息ができない。動物みたいにうなって体をうごかす。さびしくてしょうがない。いやだ、なくしたくない。

ぶっとんだ記憶の中で、やけにあつかった体温だとか、痛いほどしがみついたお互いの腕の力だとかばかりを覚えていた。あとは名前を呼ぶ声。

大丈夫か?大丈夫なわけないだろ。嘘だ。みんなみんな嘘だ。でも大丈夫って嘘ついたらできる気がする。大丈夫。大丈夫。

サスケはいなくなったけど、サクラちゃんとみんなのおかげで取り戻すことができた。サスケサスケって言ってばっかで空回りしてたオレに、サクラちゃんはサスケを追いかけるのはあんただけじゃないのよって教えてくれた。一人じゃないって教えてくれたんだ。オレがほんとうにほしかったもの。

だったらサクラちゃんのため、オレは何をおしむ?瞼の裏でサクラちゃんが笑う。最高にきれいでかわいい。オレはまだ覚えてる。だけど足りるわけがない。サクラちゃんはいつだって俺の一番星なんだ。夜明けが来るって俺にいつでも教えてくれる。

しかも今はサスケがいるんだ。サクラちゃんにあれだけ贔屓されてたサスケ。助けられたサスケ。オレの心臓の一番そばにいて、オレと一緒に震える奴。右手を握る。左手も握る。大丈夫。大丈夫。大丈夫。だいじょうぶ。



気がすむまでなくと、頭の後ろが痛んだがふしぎとすっきり思考が冴えてきた。おい、とひっくりかえったままのサスケに呼びかける。

「なんだ」
「おまえ、救急キットの予備あるか」
「ああ、持ってる」

よかった、いちおう病院に泥棒に入らないで済む。とりあえず痛み止めをガンガン打ちまくって出発してやる。命令違反したら、謹慎降格どころの騒ぎじゃない。だからってサクラちゃんを助けにいけないオレもサスケも最低最悪じゃないか。

ついていっちまえばこっちのもんだ。出発の連中についていけばいい。オレの考えが読めたのか、体をおこしたサスケが笑った。

サスケの部屋から救急キットをとるついでにシャワーをあびて町に出る。五時までにはあと一時間とすこし。腹ごしらえしよう、と町をあるけば夜が明けようとしていた。

泣き腫らした瞼の隙間、ひろがる視界に朝焼けのオレンジ。夕暮れ時よりしんとはりつめた、誰かの鼓動に耳をすませているみたいな朝の街を歩いた。明け方は色をもっているのは空だけで、なにもかもが灰色に沈んでいる。朝はいつも美しい。夕暮れもだ。なにかの終わりと始まりはいつだって目を奪う。

油染みた赤い暖簾をくぐって入ると、湯気でやわらかくかすんだ空気が頬を叩く。

夜通し酒を飲んでた人とか仕事帰りなのか仕事を途中でぬけてきたかよくわからないおっさんとかがカウンターに座っている。裸電球の明かりがやけにぎらぎらしていて、でも太陽よりは弱い、へんな光だった。朝だからやけに店の中の音だとか隣の席の話し声だとかが聞こえてくる。

でてきたラーメンは自分でもつくれそうな代物だったけれど、疲労しきった体にしみいるような熱さとデンプンの甘さがたまらなかった。脂っこいものなんてよくないってわかってるのになんでこんなうまいんだろう。わからない。息つくまもなく食べ終わる。

「集合場所は?」
「阿吽の大門だ」

気づかれると元も子もない。つかず離れず追跡しなきゃいけないのだ。

近づくとやけに騒がしい声がした。大門警備の連中があわただしく機器を弄くってる。なにしてんだ、と声をかけようとするより先に、知り合いにみつかった。

「ナルト!サスケくんもなにしてんのよー!病院からかってにぬけてんじゃないわよー!」

大声でいったいのが走り出してくる。サクラ、帰ってきたって!と耳に届いた声にぽかんとした。

「国境哨戒の人に保護されて、帰ってきたの。身元がわかんなかったけど、帰ってきたって!アスマがいってたから」

いま病院、と叫ぶ声を後ろに走り出す。足がもつれてこけそうだ。だけどどれだけ早く動かしたって、追いつかない。早くはやく。

「…っはは」
「ばっかじゃねえの」

どうだろう、腹筋がマジで痙攣する。ああなんだよ、バカじゃねえの。病院にたどりついてロビーで何号室かだけを聞く。聞いたとたんロビーから走りでて、窓枠を飛び移りながら病室まで急ぐ。廊下を走るなんてできないし、行儀よく歩くなんてできるもんか!

あんだけ強くなりたいとか言って息まいたっていきがったって、サクラちゃんのことになんも手出しできなかった。手出しできなかったけど、なんとかなった。力が抜ける。ああもうバッカじゃねえの。

バカだ。俺らマジでバカだ。古今東西アホだ。アホかよ。サクラちゃんがおとなしく死んじまうタマかよ。ああもうマジ、マジで愛してるサクラちゃん。ブラボー!最高!好きすき大好き、むちゃくちゃ愛してる。ああもうプロポーズしちゃおうかな、サクラちゃんと人生歩けたらそいつの人生にはばら色が約束されるに違いない。幸運の星。スーパースター。大好き。

はは、と笑いながら眦から涙が落ちる。ああもうほんと大好きだサクラちゃん。ぎゅっと抱きしめさせて欲しい。そんでほっぺにチュウもしたい。

「バカ、ないてんな」

つまんねえこと言ってんじゃねえよサスケ。ああお前も抱きしめさせろ。そんでサクラちゃんにチュウしようぜ。右がオレで左がお前。5月の女神のキスだ。幸福のキス。俺ら二人つかまえてけちょんけちょんにして、バカねって言ってくれ。サクラちゃんの前にでたらオレもサスケもほんとに形無しのバカなんだから。バカでいいよ。

心の中でいってたつもりなのに、半分口にでてたらしい。お前が泣きそうなのもみんな鼻水っていってやるからもう泣いちまえよ。変わりにオレが泣いたなんてサクラちゃんに言うなよ。好きな女の子には知られたくない秘密の一つや二つ、あるだろう。昨夜のアレも秘密だ秘密。男と男の約束しようぜ。

だけど嬉し涙はどんだけ流したっていいんだぜ、ばかやろう。













「口笛ふけば」/ナルトサスケとサクラ





お題は「夜明けのラーメン」
3月25日の会合でご一緒したみなさまに捧げます。
サクラちゃんになかされるナルサスが最近好きです。
でプロポーズした二人は見事に振られます。
「あなたに花、あなたに星、わたしの」の感じです。

→「013:深夜番組」








TRY !

back