呼び出しだから、ととぎれがちな呼吸の合間、二度目にいえばようやく男はゆっくりと指を動かすのをよした。引き抜かれていく気持ち悪さを唇をかんで堪えていると、脱力した男の体がゆっくりと重ねられてくる。 「…また生殺しかー」 「…っつ」 痛みに顔をしかめたサスケが包帯の巻かれた左腕を押さえるのにカカシはごめん、と体を起こすと、ベッドヘッドに手を伸ばした。ついた蜜色の明りのなか枕元のティッシュをぬきとって指をぬぐっている顔は、相変わらずマスクがなくても飄々とした無表情でよくわからない。 「まだ痛い?」 「昨日いれたばかりだから、しょうがねえだろ」 「見てもいい?」 「さわんなよ」 包帯留めをはずして緩めれば、すこし伸びた包帯が床に折り重なっていく。すこし熱をもっている上肢をカカシの手が掴んだ。 「紅でいれたんだね」 「みたいだな」 「紅は発色よくないからあんまりつかわないんだよ。でもよく出てる」 左肩の刺青はそろいの焔の意匠だ。昨日一日をかけて刺された墨の周りの膚はまだ熱をもったようにすこし赤い。 「触るなつったろ」 「はいはい、帰りは?」 「終わったら」 「ふうん。ま、せいぜいがんばんな」 言ってろとサスケは伏せた眼差しをカカシに流して唇をつりあげた。 ゆっくりと目のまえの肩に唇を這わせるとサスケの首筋が強ばる。緊張のはしる二の腕を掴み、肩口の丸みから鎖骨の窪みをたどり、首筋にたどりついて軽くキスをした。 「はやく帰ってきてね」 ベストをとりあげるサスケの背中がちいさく震えた。 honey honey 「やだってばよ」 今度こそ、い、や、だ、と一文字一文字区切って発音したナルトに外した手甲を外套にくるんで隠したサスケはぐうっと唇を噛みしめた。 「なんで泊めなきゃなんねーんだよ。そりゃ明後日の任務は一緒だけどよ」 「……」 「つーかお前んちのほうが広いし綺麗じゃん」 「てめえと違って育ちがいいからな」 思わずいつもの癖で滑らせた言葉にナルトがあっさりと顔をしらけさせ、じゃあなとドアを閉じそうになるのにサスケは慌てる。閉じかけのドアに手をかけ、足を挟みこむ。 「あっ、てめ、どっかの悪徳新聞屋みてえな小技を…!」 「うちはなめんな…!」 「おまえアホか!」 がちゃがちゃと攻防を繰り返していると、うるさい、と階下から怒鳴られた。すんません!と大声で謝ったナルトは渋々ドアノブから手を放してサスケを迎え入れる。入れてもらえないと思っていたときは強引にしていられても、入れてもらってしまうとなにやら居心地が悪くて肩身が狭い。玄関に立ったままのサスケにナルトは口をへの字にしてため息をついた。 「もういいから入って来いっつの。別に泊めんのはかまわね―んだってばよ」 「……悪い」 「だから理由いえって」 「……」 「ホッケの顔も三度までっつうだろ」 「そりゃ魚だ。仏だ、ド」 「ベ、ねえー。おいおいおいおい、お前立場っつうもんわかってんのかよ、サスケちゃんよう」 あーあ、布団だしてやろうと思ったのになあ、と嫌味ったらしく言う顔は今も昔も同じイタズラ小僧だ。ギリギリと唇を白くしながらもサスケが反論してこないのにナルトはあきれたように眼を眇める。 「ちゃんと泊めてやるって。だから言えよ」 「……」 「帰りたくない理由はなんなんだってばよ。つーかお前、ここ最近任務明けいつも俺んとこ転がり込んでじゃねーの」 「…………」 サスケを見ていたナルトの顔から血の気が引いた。びたりと壁にはりついて首を横に振る。 「……頬を染めるなあ!俺のうんこはほせぇんだからな!」 「……死ね」 ぎゃあ、と見当ちがいの悲鳴をあげたナルトにサスケは怒り心頭でラリアットをぶち込んだ。 帰還の報告があってもサスケが顔をみせない。 いらついて手甲に乱暴に指をとおせばささくれに引っかかった。 「あいた」 親指の爪のわきにぷつんと小さく血の粒ができる。おかまいなしにもう片方の手甲をとって通していると、がちゃりとロッカー室のドアが開いた。覗いたのは黒髪をあたまのてっぺんでひとくくりにした見覚えのある頭とベストから覗く鎖帷子の肩だ。三白眼がカカシをとらえた。 「……どうも」 「ああ、おつかれ」 「えーと、あー、奈良ッす」 ぺこりと頭をさげたのにアスマんとこのだよねえ、といえばはあ、まあそうですねとシカマルは頭を掻いた。 「なんか随分落ち着いてるね」 「そうっすかね。なんも考えてないだけなんすけどね」 なんだ、そうなの、とかえすがささくれはまだ血を止めていない。痛いなあとマスクを下ろして傷口をとりあえず舐めると視線を感じる。 「ん?」 「男前っすね」 「そうかね」 ばりばりと頭をかいて大仰にため息をついたシカマルにカカシは眼だけで笑う。 「ったく、めんどくせー」 「なんかあったの」 「察しがいいですね」 「あんま嬉しくないみたいね」 「あー、すんません。そういう意味じゃなくってですね、あ〜」 めんどくせえー、とシカマルがうめいたのにカカシも面倒くさいよねえと適当に同意した。 「んなこといってホイホイ女転がしてんじゃないんすか」 転がすって、柄悪いなあとカカシは苦笑する。 「心外だねえ。まじめだよ」 「だって面もそんなんで上忍つったら」 シカマルはやりたい放題でしょうと呟いてから頭をもう一度がしがしとかき回した。 「あー、めんどくせえ。口じゃ勝てねえし黙るとなんか言えっつうし」 「そりゃ無謀だよ。年上?」 「まあ、年上ですね」 「ほいほい可愛がられてればいいんだよ、そういうのは。許せないときだけびしって言ってやんなよ。ただし泣かしたら駄目だね。ケンカは最後の最後で逃げ道つくってやんないと駄目なんだよ」 「……」 気まずげに眼をそらしたシカマルにカカシも視線を泳がせた。先輩のアドバイスはあとの祭りらしい。 「…ずりーっすよね、泣くのは」 「まあ泣いたら泣いたで逆にこっちから謝ったりできるからいいじゃない。泣かなかったりとかなにも言ってこないのも困りもんだよ」 慰めるのと苦笑がない交ぜになった声に経験があるみたいですね、とどこか気遣わしげな声がかえる。そこまであからさまかと半ば自嘲もはいって笑ったカカシは、でもこの場合は相手が悪いのかと肩をすくめた。 「勉強っすね」 「あはは、そんでさ、ちょっと訊いてもいいかな?」 「なんスか」 「………してねえの?」 何度もいうかバカ、とサスケがふんぞり返っているのに、浴槽にしずめたタオルで風船遊びをしていたナルトは呆れた。ぐしゃりとつぶした瞬間、手の中から空気がしゅわしゅわ出ていくのがこそばゆくて好きなのだ。 24時間営業、忙しい忍者も安心いつでもほかほかスーパー銭湯木の葉の湯である。 「先生が微妙にのろけてくっからそりゃもう…」 言うにいえないようなことになってるかと、と考えたところでシャワーのカランを捻ってとめたサスケに睨まれたので飲み込んだ。 ナルトにはばれているのだ。 昔からカカシは口で言うよりも行動がサスケびいきだと思っていたが、最近よく二人でいるのをみると思っていたら一度サスケの部屋からカカシが出てくるのを見てしまったのだった。手をつないで、階段を降りるところを。 ぽかんと気配を隠すのもわすれたナルトにサスケはぽかんとし、カカシは苦笑したのはあまり前の話ではない。 「なんで?」 なんでって、とサスケは一瞬言葉につまる。 相手はあのはたけカカシなのだ、戻った瞬間サスケの純潔(と考えるのですら脳細胞が死滅しそうだ)は風の前の塵とおなじぐらいはかない存在になるにちがいない。 苦いものをむりやり口に詰め込まれたように眉を盛大にしかめると、かき上げてうしろに流した髪を襟足で絞る。 「じゃあ、おまえがやられるとして、―――できるか?」 地獄の釜の隙間からもれてきたような声でサスケが言って横に足をつっこんでくるのを避けながらナルトはあらぬ方向に視線を泳がせる。ていうかこいつが女役かあと思うとぞっとしない。口惜しいことにたしかに顔は整っているが、どちらかといえば男前の部類で決して美少女のような、という形容がにあう外見ではないのだ。 数年前のまだ幼いころならまだしも、露になったすこし精悍になった耳から顎のラインや喉仏がめだつ首はどうみても男でしかない。しいて色気というならこの年頃共通の、性別は露でもまだ男になりきれない中途半端さからくる曖昧なものでしかなかった。 自然口調はしどろもどろになる。 「や、できるからやってる人がいるわけでー…」 つーか物理的に不可能だろ、と青ざめた表情で呟くサスケにあくまで他人事とナルトは無責任になんとかなるなる、と肩を叩いてやった。 「たしかにそんなとこにあんなモンっておもうかもしんねーけどさ、やりようによっちゃ腕も入るっつーしよ!」 「じゃあテメエが証明してこい」 「ええ!?なんで!?」 「できるっつったじゃねーか」 呟くサスケにだめだこれは、とナルトは呆れて洗面器に絞ったタオルを投げ込んだ。 「おまえな、いい加減問題すりかえんなって」 「……」 「そんなに帰りたくないぐらいしたくねーんならはっきり言えばいいじゃん。いっそおまえがやっちゃう」 「……」 「は、なんかさしてくんなさそうだよなー。でもさ、いわね―で期待させるほうがひどいだろ。いえねーの?……って、あーそっか、おまえ長くってようやくだったっけか。悪い」 頭をぼりぼりとかいたナルトはサスケの顔を覗きこんで、へへへと笑う。いつもはぴんぴんとんがってつったっているサスケの髪の毛も濡れてしまえばぺったりしていて、濡れ鼠の犬みたいだった。 「そりゃ、ま、不安になっちまうよなー」 「うるせー」 「っていうかなんでオレこんな女の子にされるみたいな相談おまえにされてんの!?」 「…うるせえ、オレだって知るか」 言葉こそ放りだすようなものでも、口調は途方にくれてどうしていいかわからないと迷いきった響きでナルトも調子がでない、というか気持ちがわるい。ざばりと浴槽からあがると、サスケももうあがろうとおもったらしく肩をならべてくる。しばらく黙々と体を拭き身支度をし、サンダルに足をつっこみながらナルトがぽつんと言った。 「お前ってさー、外には態度でかいくせに身内に弱いよな」 「……」 「あんま強く出れねえっていうか、要領がわるいっつうか甘え方が下手っつうか」 「……」 「でもお前、んな悩んでんならなんとかなるんじゃねえ?言ってみりゃいいじゃん、そんでダメならそれまでってことだってばよ」 簡単に言いやがる、とすこしサスケが下唇をつきだし眉を寄せる、不貞腐れた子どもそのものの顔をしてるのを横目にをナルトは鼻で笑い飛ばす。 「でもそういうことだろ?嫌われたくなくて突っぱねきれらんねえんなら諦めてまかせちまえよ、すぱっと男らしく」 それって男らしいのか、とサスケは眉根を寄せる。 「だってマジでこられると突っぱねられそうにねえんだろ?」 「……」 「あんま自信ねえんだろ。だったらなるようになっちまえよ、それから考えりゃいいじゃん」 ほい、俺からの餞別、とごそごそとポケットをさぐったナルトがサスケの手の中に押し込んでくるちいさなパッケージにあきれ返る。 「……」 単細胞はいいよな、とサスケが呟いたのにナルトはなんだと!と眦を怒らせた。 ぎゃあぎゃあと姦しく言い合いをしながら商店街の惣菜屋で夕飯の足しになるものを買い込んだりとすっかり暗くなって、街灯がともりだすころようやくナルトのアパートに戻る。一階にすえつけられている新聞受けをさぐっていたナルトは階段をのぼろうとして、どんと鼻先にあたった背中に驚いた。 「おい、なに立止まってんだよ。って、げ…」 「げってなによ」 お前ねえと苦笑したカカシがわざとらしく鉄製の階段を鳴らしながら降りてくるのに、ナルトは心中で大絶叫だ。顔が笑っていても声が笑っていても、さび付いた右眼が全然わらっていない。大人気ない大人なのだカカシという男は。 サスケ、とカカシに呼ばれるのに斜め下、ビニール袋をぶらさげている拳に力が入るのを見る。逃げんなよ、と背中からカカシに聞こえないぐらい小さく囁けば、きりっと歯を噛みしめたのか貝殻のような耳の後ろ、骨が小さく動くのが見えた。 お世話になったね、と笑ってカカシのいった科白に引っかかりがないわけでもなかったが、ナルトもつられてえへへ、と曖昧に笑う。サスケがこちらをすがるように見てくるのがわかったが見てみないふりをした。捨てられた動物と目をあわせたら最後なのだ。 (つーかこれも俺の友情だってばよ…!) どろんとあがった煙が夜の空気に消えていくのをみつめながらナルトはサクラちゃんに怒られそうとため息をついた。 「カカシ」 ずんずんとひっぱるように歩くカカシに呼びかける。七回目ぐらいでようやくなに、と短く返事が返ってきた。 「逃げねえから放せよ」 「ほんとに?」 「ああ」 結局、カカシに強引に押し切られたなら押し切られてしまっただろうと思うのだ。ただ下手に間があいて考える時間があったのがいけなかったのだと思う。 「カカシ」 ぱっとカカシの手が放される。ぼやけたような無表情と錆びた目はかわりなくても、張りつめた空気で分かる。怒ってるのだ、やっぱりカカシは。はあ、と長いため息がきこえたのに、歩きながらサスケは斜め横を見る。 「おまえね、そんなにいやなら、言いなさいよ」 「……」 「べつにそればっかりがやり方じゃないんだからさ、俺どんだけ辛抱きかない人間なの」 そんなに信用ないの、と言いかけてカカシは口をつぐんだ。サスケの言葉や思いに蓋をして見ないふりをしてずるいことをしてきたのは自分だ。信用しろとか思ってることを言えなんていうほうが土台むりなのかもしれない。 「まいいや、ちょっと話しよう」 (サスケっすか?ナルトのとこに泊まるっつってましたよ) でもナルトのところに逃げ込まれたのは正直ショックで、口調はまるで責めるようになってしまう。 サスケの顔を見てみても弁解もなにもなく歩いてついてきてどういうつもりかと思う。でも問い掛けたりして逃がしてやる気もぜんぜん起きなかった。自分の部屋のドアを開けて背中を押し込むと、早速鍵をかけてしまった。 サンダルを脱いでから廊下を歩き、部屋にはいったカカシはすこし驚いた。 せまい自室のベッドの前、ナルトのものらしいシャツからサスケが頭を引っこ抜いている。うかびあがった肋と肩甲骨、明りがないぶん白くうかびあがった肌に一瞬、目が奪われる。 「なにしてんの」 「……」 ばさりと頭を振って前髪をはらったサスケは上半身裸のまま、ごそごそとデニムのポケットを探ると手首を軽く振る。顔面にとんできたものをうけとって、のぞきこみ今度こそカカシは呆れた。 「……心境の変化がよくわからないんですけど」 「俺だってわかんねえよ」 「だって、したくないんでしょ」 ぴくっと癇症に眉をつりあげ、まるで喧嘩を挑むように顔を強ばらせたサスケが五歩の距離を三歩で詰めてくる。ちょっと驚いてのけぞったカカシのマスクに爪をひっかけると引き下ろした。 「やろうぜ。あんたの好きにしろ」 キスの余韻もそこそこに勢いまかせなんてといおうとしてカカシは口をつぐんだ。まっすぐ見つめてきた目と裏腹に、カカシの顔にふれてきた指が震えている。そんなサスケの生真面目さを無視することなんてできなかった。 「ゆるめて、…吸って、そう」 「はっ」 「もうちょっとだから…ああ、ほら、入ったよ」 汗ではりついた髪をかきわけて、耳にキスをする。小刻みに息をしているのが辛そうでカカシは労わるように髪を撫でて、幾度もキスをした。 「腕とか、くずしちゃっていいよ」 肩を抱いてすこし横に力を入れれば、限界だったのか震えていたサスケの肘が崩れる。腰はだきかかえたままカカシも体勢をくずすと、後ろから抱きかかえるようにして横向きに寝た。 「…きつい?」 「すこし……」 「じゃあもうちょっとこうしてよう」 カカシの息がサスケの肩あたりを湿った暖かさでつつむ。胃袋をおしあげられるような圧迫感はかわりがないし、電極をあてられるような痛みもあまりかわらない、けれどすこしかいてしまった冷たい汗がだんだんと消えていくような気がした。 「ねえ、なんでさ、いきなりしようって気になったの」 「……」 「教えてくれてもいいでしょ」 「やってから考えろって、ナルトが」 へえ、とカカシは片方の目だけを眇めて器用に笑う。 「お前ってさ、本人がいないとこだと素直だよねえ」 「うるせえ」 「あー、でもごめん、無理させたかも。気持ちわるくない?」 どこか切実な声に首をふると、よかった、と本当に安堵したような声が聞こえて、サスケもすこし安心する。一度、試そうとしたときはどうやってもサスケの反応が悪くて、カカシも引きずられるようにダメになってしまったのだ。 だから、嬉しい。 髪の毛を撫でられたり肩や頬にキスをされたり、まるで親の懐にだかれた猫か犬の子どもみたいだ。けれど少しでも身じろぎをするとひどく痛むから、力はぬけていてもあまり身動きはせず、そろそろと呼吸をくりかえしていた。 カカシの手がサスケの手をぎゅうっと包んでいたかと思えば、指を絡めたり放したり、なにかの遊びのようなことを仕掛けてくる。五分だろうか十分だったろうか、ようやく緊張がとけてきたころ焦れたような声をだしたのはサスケだった。さっきから腹の奥のほうに妙に重たるい熱がたまりだして、呼吸をするたびに爪先が震えそうになってきた。 「おい」 「んー?」 「うごけよ…」 「まだきついでしょ?」 それに動かなくても、とカカシはサスケの肩口に唇を押し当てる。 「…ッ」 「きつくて、熱くて、いいよ」 掠れた声に胸をつかれて息を吸った瞬間、じくじくとまた疼きだすのが分かる。入れたときからちっとも小さくならないカカシを感じて昂奮してしまって寒さのせいではなく肌が粟立つ。後ろで息を詰めたのに、明らかに自分の中が動いたのだとわかった。 小さく身じろいだり、足をもぞつかせているのは抱きかかえているカカシにはすぐわかってしまう。 「…よくなってきた?」 「ァッ」 耳がぞわりとして思わず体をよじると、鼻から抜ける高い声が出た。驚いて口を覆う。腰のあたりを撫でていたカカシの手がゆっくりと滑るのを止めようとする、前にやんわりと握りこまれてしまって、涙すらにじんできた。隠しようもなく昂ぶっているのにカカシが笑うのがわかって耳まで熱くなる。もどかしいほどゆっくり、指の腹でたしかめるようになぞられて太腿が痙攣した。 「いいんだ」 「……ッ、ァ、カカシ、ま、待て…なんか、おか」 「いいんでしょ?」 「く、ァ」 ぬるぬると果物でもつまむようカカシの指がどんどんあふれてくる先走りでぬるついていくのがわかる。呼吸のたびにカカシが圧迫する場所がじわじわとおかしい感覚をもたらして、どんどん追い詰められていく。たいしたことをされていないのは、楽しむようなカカシの手つきでもわかったし、観察するような声でもわかった。自分だけがどんどんおかしくなっていって、たえられない。ぴくぴくとカカシの手の中でひくついてるのが分かってサスケは目を閉じる。 「…っん、く、ぁ、…あっ」 カカシがゆっくりと動きだす。まるで奥をかき回すように緩慢な動きだった。けれどそれがさっき指でおかしくされた場所をつぶすように押してきて、爪先が意味もなくシーツに皺をふやしていく。カカシの指がうごくたびくちゅくちゅと音がして、内股を粘りのある生ぬるいものが濡らしていく。 「や、あ」 「あー、…なんか、すごい」 ふうっとかかったカカシの息が短く切れてることに鼓動がどくどく跳ねる。小さく首や耳にやわくちいさくキスをされながらゆっくりと引き抜かれていく。完全に抜き去られてほっとしていると、仰向けにころがされる。ぐったりと手足をなげだして、胸を上下させているサスケの腰のしたにカカシは腕をゆっくりさしこみ、もう片方に右膝をひっかけてもちあげる。膝裏のうすい皮膚にキスをして足をたどり形のいいくるぶしにすこし噛み付いてから、ゆっくりと上から沈めるようまた体を重ねていった。 「ぅ―――ン」 膝頭が頬につくほどきつくたたまれて呼吸も苦しいのに、圧迫感よりおかしな浮遊感のほうが大きい。さっきの感覚が欲しくて自分から下肢を揺すってしまう。なにもされていないのに中はカカシを喜ばすよう痙攣していて、気を抜くと漏らしてしまいそうだった。荒く息をはきながらゆっくりと汗ばんだ首に腕をまわすとわかってくれたのか、カカシが額をサスケの額にこすらせてきた。お互いの睫がくすぐったい。 ひどくしていい、と切れ切れに掠れたひどく切羽詰った声にわけもわからず頷いてしまう。 「ありがと」 子どもみたいな言葉と唇に羽みたいに軽いキスが降りてきたとおもったら、それがこの夜カカシがやさしい最後だった。 そわそわと詰め所の入り口をみていたナルトは、戸口にようやく現われたサスケに顔を輝かせた。もしや、と思っていたが特に顔に傷がついてるわけでもなし、沈み込んでる様子もない。 「サスケ」 ナルトを認めたサスケは口を開いたがなぜか閉じた。 「?平気だったんか?あのあと」 目線をそらしながらも頷いたのにナルトはホッとするやラーメンおごれ!とサスケを羽交い絞めにした。瞬間、思い切り足を踏んづけられる。 「ってえええ」 「そりゃこっちの科白だ…っドベ」 なんだおまえその声、と言いかけたナルトは、目立った外傷があるわけでもないのに歯を食いしばっているらしいサスケをまじまじと凝視する。それからおもむろに懐をさぐると、サスケの手のひらにぎゅうっと押しつけた。 手のひらをみれば飴だ。 なんだよ、と顔をしかめるサスケにナルトはどこかぎこちないながらも笑う。 「せ、赤飯がわり?」 「……」 のどあめだ。 |
「honey honey」/カカシサスケ |
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