サスナル要素がほのめかし程度すこしはいります。
OK?



































真昼の月





絶望とか諦めとかいったものをつれてくる人間がいる。





身震いしてから、ゆっくり肩口に突っ伏してきたサスケの黒髪がくしゃついて汗や土、草にもにた青くさいにおいがたちのぼった。走っているときよりも立ち止まってからや動きをやめてからのほうが呼吸も鼓動も荒く熱くなりやすく、思い出したように唐突に吹きだした汗が首筋や背中をぬらしていく。鼻だけでは到底たりずにうすくあけた口からも空気を吸いこめば、生ぬるくしめった空気が胸郭の奥にすべりこんで微熱を体にためていった。

熱ぃな、とまだどこか半分星が飛んだ気分のまま呟けば鎖骨の上あたりでサスケがなにか呻いているのが聞こえたがくぐもってまったくなにをいっているのか分からない。なに、と聞き返せば顔をよこむけたのか耳の傍で明瞭となんでもねえと答えが返ってきて、ぬるりと引っこ抜かれる。

正直、この感触だけはどうにも苦手だった。最中は盛り上がって飛んでるし、違和感もすりかわるけれど、冷めてしまうとなにせ使うところが使うところだからトイレを思い出してかなわない。

スプリングをわずかに軋ませて肘をつき、起き上がったサスケはゴムの口を丸めてゴミ箱になげる。それから滲んだ汗を肩口でぬぐった。下腹に飛び散ったナルトの精液がシャツの裾を汚しているのに顔をしかめる、二の腕を捕まえて起き上がる。

まだ下半身に溜まっていた血がもどりきっていないのだろう、すこし眩暈がして白っぽく目の前が灼けるように輪郭を溶かし、また浮かび上がった。気の早い草ゼミがじりじりと地をはうように鳴いている。どこかの家で焼いているらしい魚のにおい。傾きかけた日差しは斜めに落ちかかってもなお強く、シーツに零れた翳と光のあたる白い境は黄や赤じみた色さえ見えた。

「……どっち?」
「なにが」
「次。オレ、いれてえ」

いいながらすべりおとした手でゆっくり引寄せ、やわらかいところを割った。

やられた後にやるのが好きだ。さら湯に似た尖りがなくなって、なれたいい味になる。反応がよくなるし声が出やすくなるのも知ってる、大人しくしてくれるわけもないから先に譲ったほうが体力があるナルトにとってはやりやすかったりもした。

重そうに瞬きをしたサスケは転がっていたジェルのボトルをおしつけてくる。やり、と笑うと片方の眉をしかめてそんな喜ぶことかよ、と呆れたため息がおちてきた。唇の端にへばりついたガーゼと絆創膏越しの熱はにぶかった。

ぬらした指で割りひらいていく。詰めた息が耳元で浅く速くなって、腹のあたりに零れ落ちるころ体を離された。まだ、と言うのに、あんま固えときつい、と呟いたサスケが握って、体を落としてくる。

噛みつくような熱と圧迫が先の一番いいところを包みこんでくる。下腹に力をいれ顎をそらしてすこし堪えた。はあっと長い息を吐いたサスケの湿った皮膚が腿にくっついて、全部呑みこまれたのだと知る。耳の後ろで血管がふくらんで縮む音がした。

深呼吸をしてすこし上向いたせいでくずれた前髪から露わになった顔が、殴打で青なじみができてかすり傷のある顔がとびきり空腹の後で好物の最初の一口を味わっている、恍惚といったことばそのものの顔だった。多分ナルトも同じ顔をしている。動くにはすこしまだきつくて、サスケが呼吸をするたびほんのすこしだけ弛んだり締めつけられたりするのを感じながらそろそろと呼吸をした。

着たままのシャツを捲り上げて、とがった腰骨をなであげ張りつめた筋肉の下にある心臓の場所をたしかめるようにゆっくり手のひらをもちあげていった。すこしとがりかけた乳首をつぶすと、ナルトの腰をはさんだ膝がふるえた。指の下ではっきり立ち上がるのに唾をのみながら、もう一度つぶしてはじく。

「っふ」
「う、」

いっきに狭められてナルトは軽く顎をもちあげて歯をくいしばった。腰のあたりが重くなって肌が粟立つ。数十分前まで殴りあい罵りあっていたのがおかしいくらいに繋がって熱を分かち合っていた。似たようなものかもしれないと思う。ただ粘膜で触れ合うことと不器用な言葉を尖らせたりすることの本質的なちがいはなんだろう。揺するたび腹の底からうねり猛って躍る血の温度は同じだ。

は、は、と短く息が切れて、ぼたぼたと上から落ちてきた汗が胸や脇腹を落ちていく。だんだんと逸って深く大きくなる動きに白や緑、黄色が瞼の裏で斑に波打ってぼやけていく。足を絡めて首にまきつく腕に息苦しくなるほどひきよせられて、唇を重ねた。

「ぅ、ン、うっ」

ざらついた舌を吸いあげた瞬間、きつく触角にしゃぶりつかれて脇腹がひきつった。

舌を刺す軋んだ血の味に間近でぼやけたサスケの鬱血に重く水をふくんで腫れた瞼に蹴られて息を吸うたびに痛む脇腹に苛立ちや怒りをぶつけあった証左はありありと残っている。床にこぼれたビールの琥珀にふやけた紙煙草の葉が汚らしくちらけているのも、壁際になげつけられたままの雑誌がおちているのもあからさまだった。罵り合って、殴って、舌打ちをして、だのに口付けのたび重なる熱のなにも削りはしなかった。

「……なあ」

もらした声はひきつって掠れて弱弱しく、息継ぎの合間にちぎれてしまいそうだ。皮をむかれたばかりの果物の瑞々しさで鈍くうるんだ瀝青の眸が重く瞬くのを覘きこんで、鼻をこすらせてナルトはどうにか声をしぼった。

「なあ」
「…ん、だ」

罵り合って喚いて突き放した唇で口づけをして時に泣いたりまでして好きだという。砂で舟をつくるような果てしのない徒労をくりかえしている。人気のない暗がりで繋ぐ指先はいつだって、ある種の切迫さでナルトの心臓を逸らせた。

腰にひっかかっていた無骨そのものの足を抱えなおし、向かい合わせからシーツに倒して深く分け入る。ぬかるみに沈め首筋が震えるほどしつこい甜さに歯茎がいたむほど噛みしめた。目じりが震え涙腺をけりあげる熱に息をすうとまぎれもない嗚咽になる。こんなひどい形で内臓のなかにつっこんでかき回し暴いて暴かせ泣かせる。身も世もない慄きが背骨に噛みついてくる。

何一つ触れた気に掴めた気になれやしなくて、サスケと名前を呼んで鼻をこすりつける。いくら顎を突き出し肩をうごかして喘いでも、吸い込む空気は喉をざらつかせて蟠る息苦しさは晴れない。

「なあオレは」

もれた声は無様な哀願の態になって、ゆれる。途方にくれた。

「オレはさ、こんなぐらいに、おまえが」

本能をねじまげて摩り替え、まやかしというには熱はあまりに生々しくナルトの体を震えさせる。心だって震える。あたりまえだ。体で心は世界を知る。心はどれだけいきがったところで体の外にでれるわけもないのだ。

(おまえが好きで)

黙れよ、と言われて下瞼は痙攣し喉はせばまって息がくるしい。黒髪に鼻を押し当てれば汗と日向、飲みそこねたビールの苦いにおいで喉がつまって咳き込みそうになる。

「すきで、そのくせ、おまえは、だんまりでよ……なあ」

こんなにして、と絨毛からもたげたのを掴みあげて、こすりあげる。のたうつ体をおしひしいで、さっきまでむかえいれていた熱を手でこね回した。

「だ、まれ、ちきしょう」

うるせえ、と罵ったサスケがナルトの口をふさぐ。堪えかねてひきつる瞼をぼやけた目で見下ろし、ナルトは深くかがみこむ。口をおおった不器用な指に、なあと囁きかける。

「キスしようぜ。なあ、どけろよ、これ」

重ねた唇は血の味がするだろう、好きだと言ったあと夜明けに初めておそるおそる触れたときと変わらぬ果かなさだろう。

おまえにだけは厭だ、と初めて寝たときサスケはこぼした。サスケは時に正しい。

オレだって、おまえだけは厭だよ。告げる勇気はない。泣けてくる。あんまりだ。重ねた胸で脈打つ心臓は巨人と亀のように永遠に食い違う。終りまで正しく。

「どけろよ、サスケ」

銀貨三十もいらない、キスのひとつで購える安さだけれども。なあともう一度、ねだったところで、黙れと声がして唇が重なる。埒の明かない繰言はすぐさま消しとんで跡形もなくなった。





「真昼の月」/ナルトサスケ











→「052:真昼の月」








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