CANDY HOUSE

















さわるな、と口だけが言葉を象った。
声にはならず、うわずりそうになる息を無理やり呑みくだした。

カカシの右目はひどく穏やかだった。見下ろす色のないその目が、わずかに細められる。やさしい色を探そうとしている自分に気がついて、腹の中で罵りたおした。ちきしょう。

カカシの足が動いた。わずか3歩分、一メートルあるかないかの距離が縮まる。じり、と足が後ろに逃げようとして、壁に背中が当たった。頬に触れようとした手を俯いた視界の端に捕らえて、顔を背ける。危うくかすめた指に首筋がそそけだった。震えが伝わりはしないかと、思う。布越しの冷たさに背を押され、今度はどうにか声が出た。

「やめろ」

やめろ?とカカシは鸚鵡返しに言葉をもてあそび、わずかに首を傾げた。怪訝さをあらわす仕草で揶揄をする、口布で隠された唇がつりあがっているだろう事は想像に難くなかった。

口の中が乾いて、唾を飲んだ。気管をとおる呼吸の音すら耳障りで、意味もないのに息を潜めた。ゼラチンのような空気が絡みつく。何のためかは分からない、ただ白日に晒されていいものではないのだと、悟っていた。

「なにもしてないよ。変なのはお前だろ」

目を閉じる。耳の奥底で唸る拍動の向こう側から、甘やかすような声がかかる。ぎしりと奥歯を噛み、金気くさい唾が喉に絡み、喉が鳴った。そんなもんでほだされると騙されると思ってるなんて、バカにしている。ばかにしてる。舌打ちすらこわばりついた。情けなくて、気が変になりそうだ。ちきしょう、ちきしょう。

何か云おうとして、だが麻痺した頭からなんら意味ある言葉が出てきそうになく、むしろ目の前の男にとって何か重みある言葉が胸の中から見つけられるはずもなく、結果サスケは口を噤んだ。不愉快な沈黙を長びかせる羽目になる。壁の無機質な冷たさだけが崩れそうなものを支えていた。なんだってこんな。くそったれ。







じゃあさ。

「なんでお前逃げないの」

耳元に触れた息のなまなましさに、こんどこそ膝が震えた。

なんだってこんな野郎なんかに。













「キャンディ・ハウス」/カカシサスケ






こういう先生がいちばん好き。
アニメの先生が余りに美声なので。
短すぎとかは突っ込まないでください。





→080:「ベルリンの壁」















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