je te veux 空気の流れに応えるようにして震えた石油ランプの灯かりが、サスケの顔に影を作り、零れ落ちたカカシの言葉が、サスケの表情に曇りを作った。 「お前を誘き出す為に…、お前さ、本当のとこなんなの?国王に暗殺頼まれた俺が言うのも可笑しな話だけどさ。ちょっと、ビップな待遇で命狙われすぎなんじゃないの?」 カカシは、何気なくを装いながらしっかりと言葉を選び確信に触れる。その間も、紫色に揺らめくサスケの睫毛の影が、伏せられている目蓋が、妙な色気を漂わせカカシを何度か惑わせたが、そこは必死に理性を繋ぎなんとか事無きを得ていた。 不意に、サスケの細い骨張った肩が揺れてか細い声が響いた。 「………そんなこと、俺が知るか…」 「ま、そうかもね…」 サスケからの返答は、なんとなくカカシが思い浮かべていたものと大差なかった。 喋りたくないのか、本当に心当たりがないのかは別として…。 唯…、今の受け答えで、後者の可能性が格段に低くなったのもまた事実だとカカシは思った。 「お前と、さっきのアイツ仲いいの?」 さりげなく話題を変えながら、カカシは視線の端に止った水道の蛇口に向かって歩き出した。 「さっきも言っただろ。ここらの子供は皆、戦争なんかしてるせいで親と逸れたり生き別れたりしてるんだよ。ナルトも、俺も、サクラも…他のヤツだって…。だからこれ以上失いたくなんてねえんだ」 「ふーん」 カカシはゼスチャーでもって、水道水が飲めるのかをサスケに確認すると、サスケがちいさく頷く。そして、傍に置いてあるピカピカに磨かれたグラスを指差した。 「じゃあ、お前はつらいね」 ピカピカに磨かれたグラスを手に取り、石油ランプに透かせてみながら、カカシは静かに言い放つ。曇りひとつないグラスは、さしずめ先程の少女か、例の少年のように透明で純粋に見える。そんな彼らの心を掴んで離さないのがこの少年だとするなら、彼らの日常を踏み荒らす国王とはどんな人種なのだろうか?国民を戦争の中へと駆り立て、自らは安全な場所から動こうとしないこの国の指導者とは…。 「………なに言って」 一点の曇りも見せなかった艶やかな、黒真珠のような瞳が揺れる。不安に揺れる瞳は、誰よりも友人のことを慮っている証。でも、彼の友人は彼以上に、サスケ自身のことを守り助けている。 「だってさ、その大切なお友達は皆、お前を守る盾になってるんだろ?」 「………」 「お前は安全な所にいて、それで大切なお友達が傷ついたり倒れたりすんのを見なくちゃいけない」 「………」 「お前の為に、お前を守る為に…、皆は傷つくんだ」 「そんな言い方っ!」 酷いことを言っているのは、俺。 君が傷つく姿が見たくて堪らないのも、俺。 でも、これは。 簡単に言えば唯の嫉妬なのだと、頭の冷静な部分が教えてくれる。 「でも事実だ!」 冷たく告げながら、君の白く透き通った頬が、更に色を失くしてゆく様を観察する。 羨ましいのだ。 彼らを繋ぐ絆が。 欲しいと思ってしまったのだ。 自分にも。 確かな繋がりが…。 自分の考えに、カカシは思わず失笑した。つい何時間か前までは、そんなこと考えもせずに、与えられた依頼をこなし、深く考えることなく人の命を簡単に切り捨てた。そして、そうすることで金を得、生活をし、生きてきたのだ。そう…、そうやって生きてきた。なのに、彼と彼の友人との出会いによって、自分は今までの価値観を根っこから覆そうとしているのだ。 有り得ないと思う。こんな、たかが少年に…、こんな子供に…、やり込めたれたのだ…、自分は。 ゆっくりとした動作で蛇口を捻ると、思った以上に冷たい地下水がグラスを満たしていった。溢れかえるほどの量を注ぎいれると、石油ランプの灯かりによる揺らめきが、水面に映し出され幻想的な映像をカカシに見せた。 「だから怖いんだよ、お前」 「うるせえー!!」 引き出したいのは、彼の感情。 「なあ、知ってる?アイツ等が皆、お前のアキレス腱なんだ」 「うるせーって言ってんだろっ!」 飄々とした中に潜む、彼の劣情。 「お前を誘き出す為の餌になる」 「もう、喋んなっ!」 彼らに吐き出したお前の思いを…、俺にも聴かせて…。 「行かせられないのは、きっと待ち伏せされてるからだ」 「!?」 「お前は袋のネズミだ」 おおきく揺れたサスケの瞳が、一瞬、何か縋るつくものを探すようにこの部屋唯一のドアに向けられた。カカシは、そのサスケの動作を追いかけるように視線を動かし、そこに第三の人物の存在をはじめて認識した。 「そんなことねーよ」 そう言い放ったのは、例の金髪の少年だった。負った傷が余程深かったのか、額には玉粒の汗を浮かせ、吐く息は荒く肩をおおきく上下させている。 「そんなことねぇ…」 もう一度呟いた少年に、サスケが我を忘れて駆け寄った。その姿に、自分の存在は置いてゆかれたのだと悟りカカシはちいさく溜息を吐いた。所詮、過ごしてきた時間も、住んでいた場所も違いすぎたのだ。今にも倒れこみそうな金髪の少年…、ナルトの肩を支えると、サスケはゆっくりとナルトを座らせた。仄暗い洞窟の中の、僅かばかり灯かりでもナルトの負った傷が単なるかすり傷でないことがわかる。そういえば、先程のサクラと名乗った少女が、ナルトは治療を受けていると言っていたが、確かに幾重にも撒かれた包帯とアルコールの匂いによって、少なくとも応急処置済みであることは確かなようだ。それにしても……。 (無茶をする…) どれほどの名医がいたとして、その名医の治療を受けたからといって、こんな状態で外を歩いてやってくるとは無茶な話だ、とカカシは眉を寄せてナルトを見つめた。 「………ナルトっ!」 そしてカカシは、鼓膜を打ったサスケの心配そうな声音に、ナルトの傍に腰を落とした。 「おいっ、大丈夫なのか?」 「動くと痛てー…」 荒く息を吐きながら、ナルトはサスケの問いに答えた。その際、ぺろりと舌を差し出しへへへっと笑ってみせる。声を出すだけで肺がキリキリと焼けるように痛み、全身の関節悲鳴をあげているだろうにたいした根性だ。薄く汚れた青いシャツに、飛び散った鮮血の痕がどす黒い赤となり、こびりついている。特に腹部に広がった血痕は酷く、只事ではない出血を思わせる。 「ナルト…っ」 ナルトのシャツの裾を捲り上げようとしていたサスケの手を制止し、ナルトはカカシに向き直った。そうして、一度だけ、なにかを覚悟したようにサスケを見るとゴクリと喉を鳴らし、固唾を飲み込んだ。 変な緊張が辺りとを包み込んだ。 サスケは、不安な様相でナルトをみつめ、持て余した右手をナルトの左手へと移動させる。 冷たく凪いでゆく僅かな風が熱く火照った頬を撫ぜ、手にしたグラスからは、すっかりと汗をかいた地下水がカカシの動いた振動で揺れた。誰もが動き出せなかった。息をするのも憚れる気がして、すっかりと息を呑んでいると、直ぐ傍でサスケの喉がコクリと鳴った。そして、それが合図であったかのように、ナルトが沈黙を破って言葉を綴った。 「あんたさ、国王に会えるんだろ?」 「…ああ」 沈黙を破ったナルトが口にした言葉は、カカシが想像していたどの言葉とも異なった。意表をつかれ驚いたが、カカシは素直に頷き、視線でもって続きを促した。 「だったらさ、これ…」 そう言ってナルトが差し出したものに、カカシは面食らった。思わずマジマジとそれをみつめ、ゴクリと喉を鳴らし固唾を呑み込んだ。言葉を失ったカカシ同様、サスケも驚いてナルトをみつめた。 「ナルトっ!それはっ」 不安に揺れるサスケの手を取って、ナルトはニカリと笑顔を作る。その顔が「大丈夫だ」と言っているのは、単に気楽な為か確信があるのか…、カカシにはわからなかった。が、少なくともサスケは、ホッとしたようで表情を和らげた。 俺は、ふたりのやりとりを視界の端に捕らえながら、視線はナルトの右手の上にのせられた指輪を見ていた。その、たったひとつの…、ちいさな指輪から視線が外れなかった。 王家の家紋が彫られた、その指輪から……。 「王家の紋章(エンブレム)…」 ぽつりと漏れた男の声に一瞬、ナルトとサスケの肩が強張りピクリと揺れた。 ナルトの手の平にのったちいさな指輪を見つめながら、カカシもどうしたものかと頭を悩ましている。その指輪は、どちらかといえば至ってシンプルな作りで、紋章が入っていなければそれが王家のものであるとは誰も気づかないであろう出来だ。なぜなら煌びやかな細工も、宝石も、その指輪にはまったくと言っていいほど施されていなかったからである。勿論、細かく見ればそれは白金製のより良い金属が使われてはいたし、飾り程度には宝石も散りばめられてはいた。しかし、そんなもの、ちょっとした富豪や貴族にとっては玩具のような代物だろう。そう、家紋さえ入っていなければ…。 「その指輪は、王位継承の証の指輪だ」 呆然としているカカシに、満を持したようにナルトの声が響いた。その目は鋭くカカシを見つめのみこむ。僅かに振るえる肩が、ことの大きさを語っているようにカカシには見えた。 「どうしてそんなものがここに…」 至って冷静に問いかけながら、カカシ自身にも粗方の回答がみえはじめていた。ナルトが手にした指輪の意味と、これから話されるであろう言葉の内容と…。 「サスケのもんだ」 何の揶揄も前触れもなく、単刀直入にナルトが呟く。その声に、カカシは静かに頷いた。 「サスケのもんなんだよ」 もう一度、…まるで自分自身が確認するようにナルトが反復した。それから、また暫くの沈黙が続いて、息苦しくなった。サスケは何も言わずナルトに繋がれた手を痛いくらいに握り返しているのが見てとれた。緊張しているのは、自分か、ナルトか…、それとも、サスケなのか。深い沈黙の中、石油ランプのジリジリとしたちいさな音までもが、耳から拾われ聞えてくる。そのうち、何もかもなかったことにして逃げ出せないかと思う自分とぶち当たり、カカシはこっそりと息を零した。 そして、長い沈黙の後、やはりナルトがそれを破った。 「あんた、今の王がどういう経緯で王位に就いたか知ってるか?」 問われた問いに、カカシはこの国の歴史を紐解いた。詳しく知っているわけではなかったが、王からの依頼を受けるにあたってザッと調べもしたものだ。勿論それは下準備といったレベルで、カカシは歴史家でも探検家でもなかったので知っているとは言ってもそれは巷に溢れる噂でしかない。つまり、本当のところは何も知らないといっても過言ではなかった。 「ああ…、確か、今の王は先代の王弟で、いけ好かない噂が絶えず、王位に就く為に実の兄を手にかけたとまで言われて…って」 記憶を頼りに、まるで教科書を暗記したようにつらつらと喋ると目の前のサスケの視線が痛みに耐えるようにしてナルトに縋りついた。気のせいではなく、顔から血に気が引いていた。 「サスケは先代の王の忘れ形見だ」 「………まさか」 「まさかもなにも、この指輪が証拠だ」 「………」 「サスケが狙われる理由は、別に反戦運動の首謀者でレクイエムを奏でるピアニストだからって訳じゃねーんだよ。そんなことは、唯の理由で言い訳だ。本当の目的は指輪だ」 ちいさく声をあげながらも、カカシにも予感はあった。現在の王に子供はいない。過去も…、いたという話は聞いたことがない。つまりはそういうことだ。噂は本当で、現国王は、今の地位を手に入れるために自らの兄を殺し、そして今その息子の命さえも狙っているのだ。自らの地位を危ぶむサスケを亡き者として、王位の継承の証である指輪を手に入れ、今の地位を確固たるものにするのが目的なのだ。そして、そのために自分が選ばれ、ここにいる。 「………」 カカシは、話を聴きながら眩暈が起きそうになるのをなんとか堪えた。ナルトが語る口調は淡々としていて、聞き方によってはえらく事務的に聞える物言いだったが、それはナルトなりにサスケを配慮してのことなのだろう。サスケも、いつの間にはナルトの胸に顔を寄せ、握りこんだ手はいつまでも小刻みに揺るえ怯えていた。 「それをさ、アンタにやるよ」 そのナルトの声にカカシは驚いてサスケを見ていた顔をあげた。そして更に、サスケはナルトの胸に顔を埋め硬く目を閉じた。ナルトは、そんなサスケの手を握り、一瞬だけ指輪を持つ手でサスケの肩を引き寄せ抱いた。そうすることが自然であるかのように、あたりまえのように抱きしめていた。 「これを?」 カカシは、呆然と言葉を返しながら、ナルトが何を言い出したのか理解できずにうろたえた。そして、うろたえた自分に驚いて益々狼狽する。自分よりも遥かにちいさな少年にしたやったりで動かされ、カカシは困惑を覚えた。 「それを持って、国王のことに行って欲しいんだってば…」 「どうして…」 「サスケを自由にしてやりたい」 「………」 投げ出された言葉に、カカシは更に頭を抱えた。自分にくれるというその指輪は、紛れもなく王家の紋章が彫られた、王位継承の証である指輪だ。それを自分に渡し、そしてそれを持って国王の元に行けと言うことは…。考えて、カカシは目の前が真っ白になった。子供というのもは侮れない。普通、考えついたりするものだろうか…?いや、例え考えついたとしてもそれを実行しようとは思わないだろう。サスケを狙ってきた暗殺者である自分に、証の指輪を持たせ王の元に帰れなどとは…。つまり、サスケを亡き者にしたと、俺に報告して来いと言っているのだ。 「だからさ、頼むってばよ…」 真摯な声が耳を打ってカカシはナルトを見つめ返した。その瞳は、深い海の底を思わせる青で、根底に潜む悲しみを知っている大人の目だった。カカシは、そのことに気づき驚いた。しかし、よくよく考えれば、子供達の親は既にいないといってたし、自分と同じ年頃のサスケの境遇を見ていれば、そうならざるを得ないかもしれないとカカシは思い、今の状況を作った現国王の顔を思い出し吐き気を覚えた。 「……ナルト…」 ちいさく零れたサスケの声に、カカシとナルトがサスケをみつめた。不安に揺れるサスケの目を見てナルトが笑った。安心させるように、穏やかな笑う。それに応えて、サスケもちいさく笑った。 「俺を信じてもいいのか?」 「うん、信じるよ」 一番重要なことをカカシは訊いた。しかし、金色の髪をした少年はあっさりと肯定し頷くと、満面の笑みを浮かべ称える。 「この場所を売るかもしれないよ」 「アンタはそんなことしない」 どこにそんな確信やら自信が有るのかは知らないが、簡単に大人を…、ましてや暗殺者である自分を信じない方がいいと、こちらが説教したくなる。しかし、そんなこちらの都合などお構い無しの笑顔を向けて、最後に一言極めつけの台詞をナルトは言った。 「サスケを一緒に守ろうぜ!」 ああ、それは絶対条件だ。 乾杯だ。 きっと一生勝てやしない。 サスケがナルトに惹かれた理由をなんとなく理解し、カカシも両手を挙げて白旗を振った。 でも、それでも。簡単には負けてはやらない。 大人はズルくて賢い生き物なのだから。 「わかった…。そのかわり、ひとつだけ頼みがある」 「なに?」 わかり易く飛びついてきたナルトに向かって、カカシは不敵に笑ってみせる。 「いつか、俺もここに帰ってきてもいいか」 「へっ?」 思わず間抜けな顔になったナルトに、カカシはしてやったりと笑顔を向けた。そのナルトの横で、サスケも鳩が豆鉄砲を食らったように黒くてまん丸なお目目を、更にまん丸にしてカカシを凝視した。 「他に行きたいところもないからな」 言葉に。 「うん!待ってる!」 「………ああ」 ナルトとサスケが快く返事を返す。そして…。 「……なあ、アンタも危険なんじゃねえのか?」 「なにが?」 「アイツ…、あの叔父が秘密を知ったアンタを生かしておくとは思えない…」 今までおとなしくナルトにしがみついていたサスケが、ナルトの胸から顔をあげ、心配そうにカカシをみつめた。そのあまりのも可愛らしい表情に、カカシの邪な心は甚く刺激され、意地悪な思いが頭の中を駆け巡った。 「心配してくれるの?」 「別に…」 素っ気ない態度で返してくるサスケが愛しくて、カカシは悪戯を実行に移すことを瞬時に決めた。 「ちゃんと逃げ出してくるさ」 「………」 おどけた調子で言いながらちらりとサスケを窺い見れば、物憂げな顔にクラリときた。心配してくれるのは、恐らく自分のせいで俺に危険が及ぶかもしれないからだとわかってはいる。けれど…。 「じゃあさ、キス頂戴よ」 「はあ〜?」 「え?キスっ?」 さらりと言えば、サスケが素っ頓狂な声をあげ、ついでとばかりにナルトは驚愕の表情を作った。 「そっ、キス。戦士に祝福」 「………」 「だ、ダメだって…、サスケぇー…」 酷く慌てたのは意外にもナルトのほうだった。サスケは、出会ったときのような静謐な雰囲気を身に纏い、如何にも育ちのよさそうな立ち振る舞いでカカシに近づいた。 「早く〜」 「………」 カカシが促せば、サスケはカカシの目の前で足を止め静かに息を吸い込んだ。 「ナルト…」 「な、なんだ…」 「向こうむいてろ」 「へっ?」 「こっち見んな、いいな」 「えーーーーーっ!!」 ナルトの抗議の声をシカトし、サスケはカカシの方を向いたままナルトに無情な言葉を投げ連ねた。 「ほら、向こうむけよ!」 「イヤだってば…」 「いいから向け!」 「○×?▼□¥×●!!」 怒気を孕んだサスケの声音にナルトがとうとう折れて、ナルトは静かに踵を返すとピアノの置いてある辺りまで行きその場に蹲った。そのナルトを横目でちらりと盗み見ると、サスケはカカシの耳元にひっそりと「目を閉じろ」と零した。カカシはふたりの遣り取りが可笑しくて笑い出したいのを必死に堪えながら、サスケの指示におとなしく従い目を閉じた。 やがて体温をあまり感じさせないサスケの唇が、カカシのそれを掠めるようにして重なった。一瞬にして離れられたが、その唇は柔らかく、また少しだけガサリと荒れた感じが少年のそれらしくてなかなか好ましかった。 「ほら、これでいいんだろ?」 「幸せ〜〜〜」 「〜〜〜〜〜っ!!!」 乱暴に言い放ったサスケの顔が真っ赤に染まっていて、それを間近に見れたことを神に感謝すらしそうな勢いで、カカシはヘラリと笑った。サスケにもカカシにも見えない位置でナルトがひとり歯噛みをしたが、それはどちらにも気づかれるはなかった。 「必ず帰って来い!」 そういうサスケの言葉に、今までそんなことを言われたことないな…、とカカシはボンヤリと思った。そして、そう言われる人生ってもんはいいもんかもしれないと勝手に思いはじめている。 「うんっ、任せといて!」 「必ずだからなっ!!」 必ず帰ってくる。 心の中で盛大に誓いながら、カカシは秘密基地をあとにした。 「サスケ…、アイツのこと好きだったのか…?」 「………さあな」 「………」 「けど、お前のことは好きだ」 明後日の方向を向いたサスケが、それでもしっかりと言葉を呟いた。そのサスケの腕を取り、ナルトはピアノの前までサスケを連れてきた。 「そっか…、へへっ、嬉しいってばよ」 「………好きだ」 「うん、オレも大好き。あれ、ごめんな。サスケの許可なくアイツにあげちゃって…」 「…別にいい」 「うん…、ありがと」 サスケをピアノ用の椅子に座らせ、ナルトはその背中からサスケにペタリと抱きついた。 「なあ、サスケのピアノ聴きたいってばよ」 「まだ調律がすんでねぇんだよ」 「じゃあさ、待ってるから。後で弾いてくれるってば?」 「ああ、いいぜ」 そう言ってピアノの調律をはじめたサスケの足元に身体を丸めて、ナルトは夢心地で目を閉じた。胸の傷は痛むけど、今はサスケが傍にいてくれる。なにもかも上手くいけばいいとナルトは思った。ナルトは、サスケが大好きなピアノを弾いているのが好きだったし、それを見ていられるだけで幸せだった。命の危険とか考えずに、唯、大好きな音楽を楽しめればいい。サスケが幸せなのがいい。そう思いながら、サスケの奏でる規則正しい音の羅列にいつの間にか、ナルトは深く眠りに落ちていった。 その後、国王が何者かによって暗殺されたという噂が国中に響き渡った。 王を暗殺したのは、銀色の髪を持つ中肉中背の男で、その世界では知らぬもののいない有名人だった。その暗殺者も、暫くの間、国のお尋ね者リストに名があがっていたが、いつの間には取り消されたと言う話だ。なんとも訳のわからない話もあったもんだ。気がつけば、その国王を殺した暗殺者は、国を救った英雄として国民に広く名を馳せていったのである。 しかし、当の英雄は身を潜めたまま姿を現すことはなかった。 そのうち、死亡説が実しやかに囁かれ、誰もが悲しみに暮れた。 →next |