じょうだんじゃない、何言いやがる、そう、あんたなんかにわかってたまるか。あんたがオレにあんたの傷跡を理解しろと要求しないのと同じ強さでオレは言う。あんたが誰かを守れなかった傷を抱いて生きていくために守るなんて言ったのなんて、わかってるんだ。あんたができなかったことをオレに要求するなクソったれ。

あんたにそんなこと言われたってこの血が呼ぶんだ。忘れるなんてそんなことできたらとっくにしてるに決まってる。あのクソ男を、俺の母と父を殺し兄を殺し、オレに最大限の侮蔑を投げ辱めたあのクソ男を殺さないでどうするんだ。

あの時たしかにあいつはオレを殺したんだ、母に触れたオレを父に触れたオレを兄に触れたオレをぜんぶ殺した。ぜんぶぜんぶ殺し尽くしたんだ、オレはそれを七十二時間目の前で見せつけられた。そう、オレの家族はもういない。どこにもいやしないのは紛れもないリアルだ。

ブラザーコンプレックスだなんて言葉で片づけてヘラヘラ笑いたければ笑えばいい。だってそれはオレのリアルと似て非なるものだ。

そうだオレはあの男に愛を求めた。
そんなの鳥のインプリティングと同じぐらい当たり前のことだった。オレは不可解なあの男が世界の外へ中へ通じる穴のように感じて覗きこみたかったし覗きこまれたかった。だって確実にあの男がオレの魂の一部であったようにオレだってあの男という魂の一部をなしていたんだ。

あいつを殺したところでなにひとつ取り戻せやしないことなんて、知ってる。殺せばどこにもオレの血をわけた愛すべき憎むべき者はいないのだ。わかりきってる見当違いの説教をなげるあんたは大概、ガキってものを嘗めてる。だいたいガキが虫で遊ぶのは、飼い殺しくびり殺し、殺戮と暴力を学びたいからに決まってるじゃないか。ガキは暴力についていっぱしの哲学とスタイルを持つ智者にして探究者なのだ。

暴力と殺戮にいかなる正義もないようにいかなる悪もない。なぜならいかなる善悪も暴力を基に置くからだ。正義は暴力と呼ばれざる暴力を行使するための悪を欲する。悪は暴力ゆえに悪なのではなく、悪はある正義とたえず成り変ろうと欲するために悪であるだけの、ひとつの正義なのだ。

だからオレは正義をなにひとつ掲げない。
親殺しの兄を殺す大罪を誓うこの胸にあるのは真実だけだ。

世の中エンドマークをつけなければ納得できない事柄はたしかにあるのだ。オレの中できっといちばん大きかった重かったものをごっそり抜き取っていった。オレは傷跡にこびりついたままのあいつへの愛をどうにかしなきゃいけないし、奪われたものを返してもらわなければならない。

だってオレは逃げた。
あの夜、あの時、もしオレがあいつにビビらずにいたなら、父さんも母さんも助かったかも知れないじゃないか。
来るなっていったんだ、あの時。
まだ生きてたんだ、生きてオレに来るなっていったんだ。
なのにオレは逃げだしたんだ。まだ生きてたんだ。
オレは守るべきものを守らず戦いもしない、不作為の殺人者じゃないか。









オレはあいつが連れていった殺人者を殺さなければならない。











「吶喊」/サスケ





閧の声。



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