ハルハヤテ









今でもオレは先生を許せない。
おなじくらいオレも許せない。

あいつが殺したいといってたあの兄貴に立ち向かおうとするのは、オレがオレをバカにした再不斬にむかっていったのとおなじことだ。

おれはあの敵と戦えるようになるため、忍者として自分より強いかもしれない敵から逃げないためあの額宛をぜったい取り戻さなきゃいけなかった。水んなかに閉じこめられたカカシ先生にぜんぶ押し付けて生きのびたとしても、大事なとこが死にっぱなしになる、だから倒せなくたって、忍者ならあの恐怖に飲み込まれてビビったままでなんかいられなかった。

きっとサスケも額宛じゃないなにかを取り戻すために、兄貴に立ち向かってるんだ。だからオレはサスケがぼこぼこにされてるのを目の前に止められなかったし、エロ仙人だって止めなかった。サスケはオレとは全然ちがう傷を抱えて走ってた。傷の痛みに悲鳴をあげながら生まれたての子馬みたいに足をふんばってナイフみたいに全身を尖らせてた。

先生が言う、あいつが決めたことだからしょうがない、っていうのはきっとそこなんだと思う。

だけど里から出てったあいつはまちがってた。サクラちゃんを泣かせて悪いのは、一番まちがって頭が悪いのはあいつだったけど、あいつを止めなかったオレもサクラちゃんももちろんカカシ先生もまちがってた。

サスケが自分の家族をぶちころしたクソ兄貴をぶん殴ることと、オロチマルの誘惑は全くの別問題だった。あいつの決めたことだからなんて、あいつを一人にして考えさせて任せちゃいけなかったんだ。

だってサスケがオレらと一緒にいることをきめるのはサスケじゃない、オレとサクラちゃんとカカシ先生と、みんなで決めなくちゃいけないことじゃないか。

「あいつなら大丈夫だって」?「信じてる」って?
バカか、オレは。

なにもかもに目を瞑って信じこむことと、信頼とは字が一文字おなじだけで全くちがうんだ。信頼は自分でできることをやりきってから、他人ができるものをできるだけ手のひらに預けることだ。オレは信じこむことで限りなくサスケに関して無責任になってた。先生も。

溺れるものは藁をも掴むんだ。あのときサスケの傷は最高痛かったんだ、自分を捨ててまでどんなモルヒネでも欲しいぐらい痛かったんだ。だから、あいつの隣りを走ってたかったのなら、あいつが泣いたって怒ったって縛りつけて殴ってでも止めるべきだったんだ。

だって言わなきゃわかんねえんだ。バカには言ったってわかんねえんだ、でも言わなかったら、なおさら分かるわけないじゃないか。あきらめたらぜんぶ、終わるんだ。ゼロにどんな数字をかけてもゼロになるように。

たかが十二のガキだったんだ、あいつもオレもサクラちゃんも。右も左もわかってない、背伸びしたってなにもしらない、たったの十二年しか生きてないガキだったんだ。オレは十二のオレをバカだと思う。十二のガキなんて鼻水たらしてないだけでみんなバカだ。そんなバカに日暮れまで考えさせてどうする?バカが決めることがバカな結末なんて太陽が東からのぼることより当たり前じゃないか。チンパンジーに大事な金庫の鍵を持たせるバカがいるもんか。

でもたった十二のガキだった。
サスケはバカだったけど同じぐらい、説教がいのあるバカだったはずなんだ。
チンパンジーじゃない、バカじゃなくなるかもしれないバカだった。
オレをかばって死にかけて、気絶したサクラちゃんをかばうような、バカだった。

だから先生が許せない。サスケは、行くなよなんて言ってやれる相手が言える相手が、バケモノを腹に飼うオレと同じでめったに居ない、かわいそうなガキだったんだ。そりゃ先生は先生でオレらの親じゃないんだからそんな筋合いはないかもしれない。でも先生が言ってやらなかったら他の誰が言えた?

先生がサスケをあの夜にほうりだしたことは、先生がオレとサクラちゃんをいつかあの夜に放り出すのとおなじことだ。夜中に放り出されたオレの仲間オレの兄弟オレの一部オレの孤独。いつかオレとサクラちゃんが間違いかけたとき、先生は自分で考えろ、お前らを信じてるからって言うんだろう。

それはちがうって誰かは言うかもしれない。思ってるから手を放したっていうかもしれない。そんなの当たり前だ、先生がオレらのことを思ってるなんて自惚れじゃない、一番わかってる。先生はたしかにオレらのことを大事に思ってくれてる。

でも相手を思う気持ちがありさえすればうまくいくなんて、都合のいいことだけで世界は動いてるんなら、きっといまでもあいつは此処にいた。でも現実は違う。あいつはいない。

傍にいて欲しいなら手放しちゃいけないときって言うのは絶対ある。きっとそれがサスケにとってあの夜だった。

もし悔しいなんていうならぜったい、手を放しちゃいけなかった。オレたちは「あいつなら大丈夫だから」とかの、「あいつを信じてるから」なんて盲信にすりかえたどうしようもない言い訳を考え付く前に、あいつと一緒にいたいんだったらもっとずっと努力すべきだった。

だから毎夜、くそ頭の悪いサスケを待ち伏せしてたサクラちゃんは、サスケの問題についてオレやカカシ先生よりずっと偉い。オレが修行に頭を一杯にして寝てる間やカカシ先生が飛びまわってる間、サクラちゃんはまぎれもなく自分の愛のため明晰な頭を働かし行動してた。サクラちゃんの精いっぱいのバトンをオレは受け取った。これこそが信頼だ。

人間が人間を思うことはたえず手入れしてやらないとあっというまに色あせたり枯れたりする。それだって運が悪ければ、ずれてしまうことだってある。だからって、何もしないのは駄目だ。たとえ同じ結果をサスケが選んだとしても、できることみんなぜんぶやりきったんだと胸をはることができないんなら同じことだ。

オレはそんなこといえない。

パンチくらってねちゃったサクラちゃんにだってお前それで忍者かよってたまに責めたくなるし、言いたいことは言ったよ、といわんばかりの先生にだって薄情ものって八つ当たりしたかった。大好きな二人を罵倒する自分に気がついて、今だって落ちこむ。

それぐらいオレはあいつといたかった。

じゃあオレはあいつが出てかないようなにを努力したんだっていわれても、なにもしてないじゃないか。
なにも。

だから会いに行くんだ。
戻って来いって、連れ戻してやるって、殴ってでも言うんだ。
オレはそうしてサスケのかたちをした傷を抱えて胸をはれるようにならなきゃいけない。

















「ハルハヤテ」/ナルト







春疾風、あるいは春荒、春嵐。
このナルトはあくまでライバルです。


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