まだ部活動を行っているブラスバンド部が演奏する「星に願いを」が途切れ途切れに聞こえる。大会のため練習時間を延長した彼らのために、すでに施錠された放課後の学校で開いているのは、特別棟の扉しかなかった。

革靴を脱ぎ捨てたサスケは鞄を脇にはさんで、靴を左手に引っ掛けると、特別棟からクラス棟までの渡り廊下を渡った。昼間のざわめきや雑多な気配の名残が、靴下であるくひたひたとした足音のむこうから聞こえるような気がして、変なものだ。泥棒というのはこんな気分かもしれない、と思い、サスケは自分の教室まで急いだ。

だれにともなく、すみません、と断りながら教室のドアをあけ、真っ先に自分の机の中を覗き込む。電気をつけるのは憚られてそのままにしたせいで、教室中、差し込む夕明かりで赤かった。

「もう、閉じるよ」
「!」
「どうしたの?忘れ物?」

教室の前とびらから、鍵束を指先でもてあそぶ長身の男が入ってくる。選択地理の教師だった。

「アンタか」

ため息をついてまた机の中を探るサスケにカカシはため息をつく。

「アンタって、ねえ。それより閉館だよ、もう」
「知ってる」
「忘れ物?」
「ああ、イルカ先生に頼まれてたプリントが、文化祭の奴だから、休日までにあげないと」
「委員長も大変だね。見つかった?」
「……いや、ない」
「俺の授業で内職なんかしてるからだよ」

くっく、と笑ったカカシはサスケが床においていた鞄をとりあげると、早く出ておいで、と教室の後ろの扉を閉じる。サスケは何度も机の中をみたが、ないと知ると探すのを諦め、立ち上がった。

「寝るよりは有用だろ」
「あー、じゃあ要らないんだ。地理研に余りあるのになあ、イインチョ」
「……」
「今ならおすそ分けの亀屋のあられもあるけど、どうする」

サスケは渋面を作り、クラス委員顧問の背中を無言で蹴り飛ばした。痛いな、とぼやいたカカシがメタルフレームのメガネをひょいと奪ってしまい、サスケの目つきが近視のせいでいっそう悪くなる。がらりと教室の前扉が後ろ手に閉じられて、下がろうとするが、教卓そばの棚につっかえて、下がれない。

「手段が子供じみてんだ、アンタ」
「でも、お前来ただろ」

笑って顔を寄せてくる男にサスケは諦めたように目を閉じた。チョークと、コーヒーと、それから煙草の苦味と、すっかり慣れきったそれらにはもうため息がでるだけだ。この男も自分もたいがいばか者だ。










「放課後」/カカシサスケ







地理教師カカシと委員長サスケ。
続きがあったりします。
「昼休み」










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