なーんかそいつ苦手なんだよなあ、とゴーグルの下で目を眇めるのに参考書から顔もあげずにカカシがじゃあやめれば、といえばそんなわけにいかねーんだよ、と唇をとがらせる。

テストが間近いため、乗り換え駅すぐそばのファーストフード店の、奥まった席で昼食も兼ねて勉強会をしているのだ。

「だっておばさんち金持ちだから金いいしさー、なんかなんだ、ケーキ出てくるし」
「単細胞」
「……うるっせえな、週に一回ケーキだぞ!」
「オレは甘いもん好きじゃないからね、べつに」

ぐうの音もでない切り返しに癖のせいで方々にはねた黒髪をかき回した少年はシャープペンシルをカチカチと鳴らして、数学に取り組み始める。

「くそ」
「そこ、代入間違ってる」
「……あ」

消しゴムで慌てて計算用紙を擦るとわら半紙が破れ、十五分ぐらいかけた問題の解答がおしゃかになる。

「あああああああああああ、もうオレだめだ…後輩のやつらにタメ口きかれるんだ…」
「そもそも公式がまちがってるんだからあきらめろ。……泣くなよ」

呆れ声に泣いてねえよ、とオビトはちょっと鼻をすすって、使えない計算用紙を破り食べ終わった包装紙の山につっこむ。学ランの袖がすこし汚れたのを指先ではらった。

「で、なにがそんな苦手なんだよ」
「いや、その従弟、年下なんだけど、さー、なんか冷静つうか…冷めてるっつうか。大人しい子なんだけどさ」
「うるさいガキの家庭教師じゃないだけましだろ」
「そんでそのむっつりした従弟なんだけど、その下の幼稚園のがなんかかまってーって感じでドアの前にちょいちょいくるしさ」

ガキと同レベルだから好かれるんじゃないの、と言えばオビトはちがうと唇をすこし尖らせる。

「お兄ちゃんが勉強してんのが珍しいから覗きにきちゃ、おばさんに叱られてんだよ」
「へえ、ほっとけばいいじゃん」
「いや、そんでなんかオレが、おにいちゃんを苛めてるみたいなこと言われてよー」
「……で」
「違うぞーってことで肩車してやったらさ、その」
「なにやったの、おまえ」
「ちょっとこけて」
「泣かしたの」
「いや、そいつは電灯につかまったから平気でさ、かえって喜んでたんだけど、上の方がちょっと怖かったみたいでさ、あんま弟には構わないでいいですよ、とか言われちゃって」
「…その子ほんとに小学生?」
「だよなあ、だよなー!?ここは適当にこうやるとこうなんだよ、とか言うと、ちゃんと説明してくださいとかつっこんでくるしさー!オレに聞くなよー!」

いや、それ仕事だろ、とカカシは突っ込む。オビトはガシガシと問題で与えられた値と式を計算用紙に写し取っていった。

「最初はちょっと弟できたみたいで嬉しかったんだけどさー」
「兄貴風ふかせらんないからむかついてんの、おまえ。そんでどうせ休み時間、その弟と遊んでたりしてんじゃないの」
「……だって、あっちが遊んでってくんだぞ」
「ガキはガキを呼ぶ?でも上の子にもうちょっと気つかえよ。嫌われてるとかマイナスのはすぐばれるんだから」

さ、英語やろう、とカカシがクリアファイルから取り出したコピーをオビトが覗き込む。

「なにこれ?過去問?」
「いや、ノート、コピーさせてもらった」
「…って、これリンの、だよな」

オビトとカカシとは別クラスの英語担当は、テストには随分役立つノート作りをしてくれるため、この時期になるとノートのコピーが放課後、休み時間に飛び交うのだ。むっつりと黙りこんだのにおまえもいる?と聞かれオビトはコピー用紙をつかみ、財布をつかんで立ち上がった。

マイナスのはすぐばれる。じゃあプラスは?

「おまえ今回頼まなかったの?」
「リンが持ってなかったんだよ」
(おまえに貸してて)

そこで気まずそうな顔するなよ、バカ。










「晴天なり。」/past






過去編。と、いうように、
過去も未来もごたまぜですすみます。


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