ランドセルを机にのせようとしていた少年は部屋から顔をだすと階段の下、玄関先をみる。だが玄関マットしか見えないので、ランドセルを乱暴に下ろすと階段を勢いよくおりていった。チャイムがもう一度鳴る。 靴下のまま玄関に下り、がちゃりとドアをあけると、チャイムを押していたらしい人影はびっくりしたようだ。 「どうも」 壁際にたてかけていた松葉杖をとりあげて上着と一緒に白や紫の花束を脇にかかえる。ひょろりとした長細い体型で箒みたいな形をした頭を下げる。一応会釈をかえしたが、見たことのない人だった。 左眼のかかった眼帯が珍しくてじっとみるとすこしため息をついて頭をかく。 ふるい町でも高台につくられた家のあたりは坂道が多い、彼も松葉杖をつきながら長手をのぼってきたのだろうか、日差しこそだんだんと強くはなってきたがまだ上着が必要な季節なのにすこし皺ついたシャツの白がまぶしい。眼帯の上あたりをぬぐう仕草に汗をかいているのだと気づいた。けれど黒いネクタイをゆるめようとはしなかった。 「えーと、他の人いますかね?」 ちょうど庭で洗濯物をとりこんでいたらしい母が外から回ってきたらしい。エプロンをほどきながら頭を下げるのに、少年は母親の隣にあゆみよって彼と向かい合う。 「おまたせしてすみません」 「ご無沙汰してます、はたけです」 「お久しぶり、退院おめでとう」 「ありがとうございます。あいつの家にいったら、本家のほうとお聞きしたので。いきなりすみません」 「いいえ、電話は頂いてたから。正念さんへの道はわかる?」 「一応、地図は」 「案内します、その足じゃ大変だったでしょう」 「すみません」 母さん出かけるの、と少年がきけば母親は頷く。オレも行く、といえば早く支度してらっしゃい、と頷いた。 かぎなれないにおいがシートからするタクシーで真ん中の席に座らせられた少年が眼帯がめずらしくて見あげていると、なんかオレの顔ついてるかね、と困ったように言う。 「そっちの目、視力わるいの?」 片方の視力が極端にわるいとよいほうの目をかくして矯正するのだと同級生のメガネの子がいっていたのを思い出しただけだ。サスケ、と母親が咎めるが、ネクタイを直した彼は肩をすくめて眼帯をひっぱり、うすい唇をまげた。 「こっちの目はね、怪我してたのよ」 「ふうん」 「今は治りかけなんだけどね」 こっちだ、といって砂利をふみ木立に囲まれた道を走り出してから怪我をしていたのだったと思い出す。母親が待ちなさいと言っているのに少年は立止まってしばらく待った。家紋のはいった手桶に水を汲み、花束の包みをほどいているようだ。 墓石のそばにしゃがみこんで母親が柄杓で水をかけて墓石をきれいにするのを見つめる。 年のはなれた従兄は数ヶ月前、玉突き事故にまきこまれて亡くなったのだ。肩車をしてもらうのは五つはなれた兄よりも背がたかい従兄のほうが楽しかった。横にならんで線香をあげてから隣をみると、じっと墓石をみつめている。こうするんだといって線香をもう一度あげてみせると彼はありがとうとすこし笑った。 それから毎年、祥月命日にはたけカカシはうちは家の玄関に現れた。 |
「晴天なり。」/オビトとカカシとサスケ |
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