正直いって友達は水くさい奴です。

妙なところが敏いくせに肝腎のところが鈍い野郎で、つるんできてもう十年以上にはなるけど告白すれば、友達だよな、と聞けたためしがない。オチとして最悪の、意外そうな顔とかされたら僕はかなり落ち込んでしまうと思うからです。ただ冗談まじりにいった感じではわるくない感じ、だからやっぱり僕とそいつは友達なのだと思う、今回のアンケートにもそいつを友達としてあげたわけです。

それで、その友達の話なんですけど。

中学になって高校になってくると、小学生のころにはわかんなかったことやわかりたくなかったことみたいなのもわかってしまうわけで、だけど大半が終わってしまったことだから腹を立てるだけ損だな、ということが多い。だけどやっぱり僕はまだまだ大人になんかとてもなりきれないので、苛々します。

あれ、と思ったのは小学生四年生の確か秋だったと思う。たぶんリコーダーの授業でよく見てた音楽室から見えるイチョウが黄色だったので秋。掃除のとき腕まくりした友達の手首が青疸で、なんか不気味な植物みたいな色に見えたんだ。僕は思わずびっくりして、大声をあげたら「階段からおちたんだよ」っていう。階段ですべって脛とかぶつけると五秒ぐらいは声もだせないでごろごろ転がるのは誰でもすると思う、だからそのときはまあそうかで話はおしまいでした。

僕の家は友達の家と普通に近所で、毎週二回はサッカークラブに通ってたから僕の住んでる団地から歩道橋をわたって坂をおりて、区のちがう学校まで通ってました。クラブが終わるといつも自転車のライトはつけなきゃいけないぐらい暗かった。帰りの坂道をのぼったところ、そこに友達の家がある。その日は練習試合がちかかったからちょっと練習が長めだったし、メンバーの奴らとコンビニでよって買い食いしてたから遅くなってた、何時かまでは覚えてないけど、夕ご飯にはちょっと遅い時間だったと思う。通りがかったとき怒鳴り声がきこえてガラスの割れる音がして、むちゃくちゃびっくりしました。正直ビビッたんですけど、すぐに近所迷惑やめろよなとか思って立ちこぎして帰りました。

翌日友達はものもらいになってました。
そのとき、友達の兄ちゃんは大学受験の年でした。

そのあとはクラスが違かったのもあったしでわからなかったけど、高校になったいまはそんなことはなさそうだと予想がつくから、その問題は終わってるんだと思う。(兄ちゃんは一人暮らしだそうです)。

考えすぎかなとかも思うんだけど、おととし、うちのお姉ちゃんが専門学校に行きたいっつったら、父さんはともかく母さんがむちゃくちゃ反対して、母さんの反対があんまりすごいから父さんも母さんに負けて、やめなさいとは言わなかった。姉ちゃんの進路なんだからって言ってた。けど、それから三ヶ月ぐらいほとんどご飯のたびに大学いけ大学いけって言ってて正直こっちもうんざりしてました。だんだん、お姉ちゃんがストレスたまってんのもわかってたけど、自分はガキだし結局親に育ててもらってるからなんも言えない、だから説教がはじまるとすぐ部屋にひっこんでた。

でも黙ってたら、ある日、姉ちゃんがいきなり怒って、怒って、父さんのことも母さんのこともむちゃくちゃ汚い言葉で罵って、そんで俺を罵って、泣きました。女が言うにはあんまり汚い言葉づかいだったから父さんも母さんもびっくりして、びっくりしたあとむちゃくちゃ怒って、あんな怒鳴りあいみたことないってぐらいにぎゃあぎゃあ騒いで、ものとかも投げてた。部屋に逃げたかったけど、人間があんな怒って怒鳴ってることにびっくりして、でも自分もバカにされるしで俺もむちゃくちゃ怒って怒鳴ってました。いま思い出すと、ちょっとありえないとか思う。

そのころたぶん、一週間にいっぺんは誰かが怒鳴ってた。でも姉ちゃんの受験がおわると、いままでどおりの家族で、全部いままでどおりで、一瞬殺し合いがはじまるんじゃないかってぐらいの、姉ちゃんが警察にかけるってどなって電話にぎりしめてたのがバカみたいにおもえる。

なんか離婚してる家とか父親がいない家とか複雑な家庭の事情とかが話題になると、きまって普通の家族なんてどこにもない、みたいな言葉をきく。おいおいおいとか真っ当な家庭に育っておきながら僕は嘘くさいなあとか思ってました。だけど、本当じゃないけど嘘じゃないとも思う、というのが正直な今の感想です。

だから、なんか、ニュースになるみたいなことじゃないけど、リアルに起こってるってことをなんとなくわかってる。たぶん、事件になるならないかはなげたものがでかい灰皿か雑誌かで、当たったか当たらないかの違いなんだろうとも。

正直、知りたくなかったことです。
でも知らないほうがいいとも言えない。
友達は僕に愚痴を言うわけでもない。(まあたぶん、問題はとっくのとうに終わってるからだとおもう)だけど問題でおこったことによって、そのまえに自分は戻れないし、たぶん友達もそうだ。

傷ついたとかいうのもちがう気がする。悲しいわけじゃない。忘れられないと思う。

いつかそういうことを笑い飛ばせたらいいなと思う。 打ち明けると家の中が地獄みたいだったとき、ふざけて「DVひでえんだ」とか笑ってました。血がでたわけじゃないし、事件になったわけでもない、怒鳴るのもむかつくのもそれが家族なのもほんとうにいやで、うんざりして笑うのが最後の最後にあった感じ。でもそれは笑わないとなんかやってかれなかったからだと思う。だから、そういうやな笑い飛ばしかたじゃない、笑い飛ばしができたらなと思います。

別に僕はそいつに打ち明け話をされたいわけじゃない。実際僕は、家の中で起こってたことを誰にも相談しなかった。学校だといつもどおり騒いで、遊んで、勉強してただけでなんも変わらなかった。だけど僕がどうにかこうにか笑ってたとき、一緒に笑い飛ばしてくれたので、なんか今こんな恥ずかしいのを原稿用紙に書いてるわけで。

もし違う笑い飛ばしをできるなら、そいつができたらと思うわけで。








「晴天なり。」/犬塚キバ課題作文「ともだちの話」








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