あしのチガヤが借りていたビルの、冷蔵庫のなかから切断された遺体が発見された。ごみ用のポリ袋にいれられたものは一体分に相当し、腐敗もあまり進んでいなかったことから女性のものと推測される。 歯の治療痕と血液型により、おそらくは行方不明になっていたアマネのものと判明した。死亡推定時刻は発見時からおよそ四十八時間から七十二時間ほどではっきりとはしない。ドヤ街での最後の目撃証言とあわせて、イナリが誘拐される前日あたりに殺害をされていたのではないかと見られる。 また、あしのチガヤの行動が霧隠れの里の総意ではないことは程なくしれた。 診療所の一室。 「霧隠れの里、水影名代、忍頭の三、うらミズホが言上申し上げる」 なのったミズホというくの一はカカシを見あげ胸のまえに右手をおしあて膝をついて頭をさげる。長い髪が肩をすべって床に垂れた。 利き手が空であることをしめす、あきらかな礼をとったミズホは懐から巻物を取り出した。結ぶ紐は藍に白の二色、飾り玉には霧隠れの紋様がきざまれている。 「五代目火影ツナデ姫に、波の国に関して水影からの書状を届けにまかりこしてございます」 「承る」 「また、あしのチガヤに関しては、然るべき処置をもってわが里にて処断いたしたく、お渡し願いたい」 「うちの傀儡がひとり、死んでます。それじゃおさまりませんよ」 淡々と告げたカカシに、存じております、と返したミズホは顔をあげた。 「身柄の引渡しも考えにいれております。あしのチガヤの行為は五大国同盟をゆるがせる、非常に許しがたい行為であることをわが霧隠れにも示さねばなりません。断固として。ゆえに、この場は私に免じてお預けねがいたい」 私の言葉は水影の言葉でもあります、というミズホの、忍頭であることもうなずける威圧感をうけながしカカシはため息をつく。水影に出られてはこの場はひくしかなさそうだ。ツナデに対処してもらうしかないだろう。 「書状はお預かりいたします。木の葉隠れ上忍はたけカカシが五代目火影に責任をもってお届けいたしましょう」 恐れ入ります、といったミズホは綻ぶように笑う。あ、と声をあげたのはトイレから病室にもどってきたナルトだった。本当に腹部を怪我しているかと疑うほどの元気ぶりだ。ミズホがちらりと一瞥をして眼を見開く。 「あんときの!」 「しまったな」 ぼそりと呟いたミズホに飛び掛ろうとするナルトをとりあえずカカシが捕まえる。 「離せってばよ、せんせい!このおばさんはなぁ!」 「おばさんって、おまえ失礼な。霧隠れの忍頭だよ。めちゃくちゃ強いよ」 ごん、と拳を入れる。とめたのはミズホだった。 「いや、先日、ナルト殿に怪我をさせてしまいまして」 「……」 脇腹と両肩の関節をはずしておいて、しかも海に放り投げるのは、死のうが生きようが野となれ山となれということだ。悪びれもせず、さらりと言い放つのに、さすがというかなんというか二の句がつげない。 (……怖) 「隠密に動けとの厳命があったため、身分も明かせず、まことに申し訳ない」 しゃあしゃあと謝るミズホにナルトは毒気を抜かれたのか、頭を掻く。 「まあ、そこまでいうんなら仕方ないっつうか」 仕方ないのかよ、と周りのものは心中でつっこむが、ミズホは花がいっせいに咲いたように破顔するとナルトの手をつかんだ。 「かたじけない。なんて寛容で器のおおきい方だ」 さすがです、とおだてられるのにナルトは、まあ俺ってば火影になる男だし、とあっというまに木にのぼるなんとやらだ。 ミズホが帰ると、ナルトは疲れた、といって椅子に腰をおろした。 「治ってないのに動き回るからだよ」 「だってじっとしてんのやだもんよ。あー、これ多分熱でてるな」 「……なにやってんの」 無茶しすぎだよ、おまえ、と言うのにナルトは肩を竦める。 「だってサスケが一人で行っちまうんだもん。追っかけるしかないじゃんか」 太陽は東からのぼるのだと、いう確かさで言い放ったナルトのつむじをカカシは見下ろす。 「おまえって、ほんとにあいつのこと信じてるんだね」 「や、信用してたら追いかけないって。でも、アイツを疑う意味なんてないじゃん」 「あいつ、カガチに粉かけられてたんだよ」 「それだっておんなじことだってばよ」 なあ、先生、とナルトは発熱で浮ついた眼差しでカカシを見あげた。 「アイツの一番はさ、今も昔もきまってる」 絆創膏のへばりついた口元を動きにくそうに、もつれた早口でいったナルトは白い歯を咲かせて笑った。 「その一番をちらつかせてやるだけでいい。目的の最短距離しか選ばないだろ。それ準備してやればいいだけ、そんだけで済む。だから対処のしようがある。だから、裏切るわけねえもん」 どういう理屈よ、それ、とカカシがいうのにナルトはばかにしきった顔でカカシを見た。 「だからさあ、オレが火影になるじゃん。そしたらサスケに協力してやるって言えばいいだけの話じゃんか」 「すごい公私混同じゃない?それ」 海をみる眼はひどく穏やかだ。首筋から肩の線がおどろくほど精悍になっているのに気がつく。 「でもねえっしょ。だってうちは一族滅亡の犯人だもん。いまでもうちはイタチってばS級の賞金首にかわりねえし。『木の葉隠れの威信にかけて』っていえば面目も立つ」 って、前にシカマルとサクラちゃんが言ってた、と笑うのに肩透かしをくらったカカシはため息をつく。 「脅かさないでよ。しかも受け売り」 「まー、そんなことは置いておいて。有限実行の男だしオレ。つーかマジではた迷惑な兄弟喧嘩だってばよ」 その片付け方もいろいろな意味でものすごい、と思いながら、ナルトらしいとカカシは肩を竦めるしかできない。復讐という言葉を使わないととたんに笑える響きになるからおかしなものだ。 「サスケが怒るよ」 「あいつが怒ったって全然こわくねぇっつうの。ばっちこい!」 ナルトの笑い声が響く。笑えるようなことに、いつかなればいいと思って、切なくなった。窓の外で夕暮れの海は平らかに広がり、凪いでいる。 「……カカシ先生はさ、俺のこと、バカっていう?」 不意に声をおとした、うつむいたナルトの顔はよく見えない。体の横にぶらさがった拳が、わずか震えている。 「……言わないよ」 とたん、へへ、と唇だけで笑う。ナルトの肩を一度、たたいてカカシはもう一度、言わないよと告げた。 「おまえなら、きっと火影になれるかもね」 「先生がそんなこというと胡散臭いってばよ」 「おまえねえ」 「ていうか、ばっか、先生。そもそもなれるかもじゃなくてなるんだっつーの」 そこんとこ間違えないでよろしく、とナルトが指をつきつけてくる。 「まったく、おまえには敵わないなあ」 「気づくのおっせーよ」 ナルト、と呼ぶサクラの声がするのにナルトは慌てて立ち上がる。 「やべ。薬のむの忘れてた!」 「怒られるまえに早くいきな」 「サスケは?」 「寝てるよ。俺がみてるからいいよ」 「んじゃ、よろしく」 ばたばたと出て行ったナルトに手をふったカカシは、ベッドにかかったカーテンを開ける。ベッドの中、サスケが眼を覚ましていた。 「…相変わらず、あいつはうるせえな」 「……おまえねえ。その言い方はなんとかしな。友達なくすよ」 盗み聞きなんて趣味わるいよ、といえば、勝手にうるさくしたのはそっちだろうと返される。 「お前にいい薬になるだろうかと思ってさ」 |
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