小火がおきたのはタズナがいる村のはずれ、船着場のちかくになる日雇い労働者たちが起居することも多いドヤ街だった。もともと小さいながら港の入り口になるタズナの村が属する郡はもとから建設会社が多いほうだったが、ここ数年の経済復興の波は地方にまでおよんでいる。ガトーカンパニーの圧力で数年間止まっていた公共事業も、カンパニーの会長交代による経営縮小にともなう波の国からの事業撤退から再び動き出し、すでにあたらしい港の着工が決定している。

雇用口が増えれば所得が増え消費が増え、経済が上向き見込みとなれば、国外からの企業参入の打診も多く来る。国内各地から働き口を求めて人があつまり、ドヤ街も数年前の倍にわたる賑わいをみせていた。法定ぎりぎりの監査が入れば即座に営業停止になるにちがいない雑居ビルがひしめき合い、朝夕は通勤をする自転車が通りうめつくす。

アジロがわざわざ出向いたのは、小火のちかくでアマネらしい女をみたという情報が入ったからだった。波の国にカカシたちが入ってからすでに数日が経過し、アマネが姿をけしてからはすでに二週間あまり、霧隠れの草であるあしの一族と接触していたらしい、という情報を最後にしばらく進展が見られなかったのだ。

「小火は、最初自然発火か、って疑いが出てたんですけど火の気のないところでして。たとえば油とかあるでしょう、紙にしみた油なんかが酸化して酸化熱がたまったりすると自然発火ていうのもありえるんですけど、いまのところ出火原因がわかってない。それで放火の疑いがでまして、警務隊が聞き込みしたんですね。そのなかに、セイさんと呼ばれてる浮浪者、こいつが辻占をやってるんですが、この人が昨日の21時すぎに男と一緒にいるアマネらしい女を見たといってまして」

ぼそぼそと帽子の下からしゃべるアジロの顔をみずにカカシは簡潔に尋ねる。

「出火と関与が?」
「いや、目撃された女に関しては聞き込みの手伝いをやった奴が気になる報告ってことで上げただけのようです。いまのところ警務隊もそのアマネらしい女の線より有力なのがあるようなんで警務隊からはもうあまり期待はできんでしょう」
「警務隊に傀儡ってはいってましたっけ」
「いえ、浮き草からもらった情報です」

浮き草と呼ばれるものは、草や傀儡のうちでも特殊なものたちで、特定の隠れ里に属さない。忍び崩れや抜け忍たちが多くふくまれ、草や傀儡あるいは忍たちに情報を売ることを生業とするものたちだ。地域の実力者と密接に結びつきおもわぬ伝手を構築するものも多く、国外での任務の場合かかわることも多い。

「それで」
「で、その目撃されたらしい女と、男の二人連れにしぼって聞き込みしますと、もう何人かが見かけたといいます。新品の水色の作業服をきてたらしく、おぼえてると。一人、写真を見せると間違いないといった女性がいました。一応それをもとにしてだした女の顔と男の顔です」

似顔絵を出したアジロはさらに白い紙にコピーされた町の地図をとりだす。赤いボールペンでアマネらしき女と連れの男がみかけられた場所に目撃時間とおおきなマル印をつけていく。海へむかう二つの通り間にあるドヤ街をその赤い線は横切って海から離れた。付け加えるようにアジロはアマネのアパートです、と一番最初に目撃された場所からおよそ500メートルほどの場所にマルをつける。

「自宅に一旦戻ったってこと?」
「いえ、アパートのほうには交代で人をはりつけてました。見落としたってことはありません。警戒してはなれたんじゃないでしょうか」
「勤務先は?清掃員やってたんだっけ」
「ええ。でもやめたきりやはり連絡もないそうです。あとはまだ聞き込みの連中からの連絡待ちになります」
「そう。男は?」
「四十代から三十代半ば、中肉中背であまり作業員という印象ではなかったとセイさんは言ってますね。日焼けもあまりしていなかったと。見た感じ、男が上司で女が従業員のように見えたといってました」
「同じ色の作業服をつかってる会社の洗い出しは」
「いま調べさせてます」
「会社がわかったらそこに搾りこんでアマネをさぐってほしい。それと会社の顧客がドヤ街にいるかどうか」
「はい」
「会社の名前がわかったら一旦、木の葉の参謀部に報告をあげて会社の情報を取らせる。霧がくれとの関係も洗わせる。裏付けはよろしくたのみます」
「了解しました」

報告は以上ですが、といったアジロにカカシが目を向ける。

「傀儡衆の会合を今日これからやる予定です。できればカカシ上忍にも出席していただきたい」
「そこに直接聞き込みした人たちも出席はする予定ですかね」
「いま、アマネの捜索にあたらせてる全員になります」
「わかりました。出席させてください」

ありがとうございます、と頭をさげるアジロにカカシもよろしく、と頭を下げた。カカシはふりかえる。

「ナルト、サスケ、悪いがオレは会合にご一緒することになったから、その間すこしきいてほしいことがある。、アジロさん、ここの浮き草の元締めはクチナワって男ですよね」
「ええ、クチナワです」
「後々、縄張りを荒らすことになるからオレのほうから挨拶にいかせてもらうつもりなんだけど、先触れってことで連絡をいれて欲しい」

連絡先は、とカカシがアジロをふりかえるとアジロが帽子の鍔をもちあげて、すこし笑った。

「クチナワが直で経営している店がいくつかあります。浮き草の連中も入ってますから、渡りはすぐにつけられるでしょう」







いくつかある店をナルトとサスケは手分けをして行くことにした。とりあえず接触が成功したら式をつかってお互い連絡をとることにしてナルトと分かれる。

三軒目だった。看板にサウナとあるが、隣には居酒屋や風俗店が軒をつらねているあたりだ。清掃中と店の前にあるのをみたサスケは裏手にまわりインターフォンを押す。Tシャツにデニムの短いスカートをはいた年若い女が顔をのぞかせた。サンダルをつっかけた裸足のかかとに絆創膏が張られている。ドヤ街の日雇い労働者らしい格好をしたサスケを頭から爪先まで女は無愛想に一瞥した。

「営業ならお断り。うちは業者がちゃんと決まってるから」

お知らせを、とサスケがいえばマニキュアで白くぬった爪を見ていた女の眼が細まる。

「なにを?」
「来月にするうしおーらせーの件で」

うしおーらせーとは波の国での闘牛のことだ。波の国の浮き草に渡りをつけるときの決まり文句だった。

聞いたとたん、ドアの脇によけた女はサスケを招きいれた。ビニールシートをはり、業者のものらしい清掃用具がところどころにおかれた薄暗い廊下をすこしあるき、急な階段をのぼった女は鉄製のドアをあけてサスケを中に促す。受付カウンターの中にいた男に女は頭をさげてさらに奥に歩いていって、サウナのドアの中に顔を突っこんだ。蒸された空気が肩をなでていく。

「おじさん、お客さん」
「へえ」

こっちにおいで、と手招きする女のとなりにサスケが並ぶと、奥まった板敷きのベンチに腰にタオルをまき腰掛けている人影がひとつ見えた。ああ、アンタかと矮躯の男はかぶったタオルの下からぎょろりとした目を動かし笑って見せた。

「……あんた」
「わざわざアンタが俺のとこに来てくれるとは光栄だ。通り名をクチナワという」


ナルトの眼が離れた隙に接触をしてきた、カガチと名乗った男だった。

「こんな格好で悪いね、年だもんでこういうのにね、たまにはいらないとどうもいけない。すぐ出るよ。カツラ、お客人にお茶でもお持ちしてろ」

はあい、とカツラと言う名の女はこっちにおいで、とサスケをつれて外にでると裏にある別の鉄階段から登っていく。人が行き来するところだけ錆がこすれた古い階段をあがり、二つならんだ手洗いのドア前にある鉄製のドアをひらけば、事務所らしい間取りの部屋があった。引越し時のままに積まれたらしいダンボールや書類、ふるびたデスクがあり、奥まったところには布団をわきによせた革張りのソファがある。事務所と住居を兼ねているらしい。

日焼けして黄ばんだガラス窓にひっかかるよれかけたブラインド、ところどころをガムテープで補強したドア、応接室らしいところには一応観葉植物が乗ってはいるが水のやりすぎなのかしおれかけている。

座って待っていて、といいのこすとカツラは奥に引っ込んだ。お茶を入れているのだろう、水音のむこうからカツラがきいてくる。

「紅茶だけど砂糖はつかう?」
「いや」

腰掛けたサスケは応接ソファの斜め向かい、事務用机は領収書や折込チラシ、食事につかったらしい食器などが散乱しているのを眺める。トレーにカップを二つもったカツラはすぐに姿を現した。

「けっこう高い葉っぱつかってるから味はわるくないとおもうけど。本島のデパートで買った奴なんだから。もうちょっと待ってね」

螺子のゆるそうな椅子に腰掛けた女は黙って座っているサスケの顔から胸のあたりを不躾といえるほどに観察して、少女らしいあけすけさで話しかけてきた。

「きみはカガチのおじさんとどこで知り合ったの?」
「話しかけられただけだ」
「ああ、おじさんそういうの多いのよね。そうやって若い子しょっちゅうひっぱってくんの」
「あんたは?あの人の親戚かなにかか」

顔立ちがはっきりとみえるような化粧をしているから最初こそ二十をいくつか過ぎたようにみえたが、口調の気安さや、袖口や襟からのぞく手足のはった様子をみると十代かもしれない。だがカガチと親戚というには似ていない。

「赤の他人よ。しいて言えば、従業員とオーナーみたいなもんかなあ。おじさんの店でバイトしてたの」
「今はやってないのか」
「うん、いまはここにいて、簡単なお手伝い。お店にはしばらく行ってないかな。だってここにいてちょっとお世話してあげるだけでおじさんがお小遣いくれるし、ごはんもつれてってくれるもの」

たぶん、きみもつれってってもらえるんじゃない、と彼女はテーブルにのった空のカップをもちあげてたちあがり台所へ行った。年のはなれた愛人か恋人かと思ったが、特有の湿りみたいなものは口調や仕草からは感じられない。まるで孫かペットのような扱いだ。

「おじさん、こきたない格好してるからわかんないけど、お金つかうって決めたらすごいのよ。お店とか貸切にするときもあるし、ここの町だと顔もきくんだから」

またなにか飲み物を用意するのか、カツラが台所の扉を開けたてする音をきいていると横から光と熱い外の風が入ってきた。顔をあげるとカガチの矮躯が首にタオルをひっかけて佇んでいる。

「待たせてすまんね」

電話だけかけさせてくれ、と壁にかけられた時計をみていったカガチは事務机の上の黒電話を引寄せると、ダイヤルを回しだした。

「ああ、そうだ、すまんが行けなくなったとお伝えして頂けますか。ええ、そうです。連絡先はですね、いいですか」

お願いしますよ、と一通りはなしたカガチは台所で茶碗を片付けるカツラを呼んだ。

「カツラ、悪いんだがな、ここに転送で電話が入るかもしれないから、鳴ったときは出かけてますって言っといてくれ」
「はあい」
「あんた、待たせたね。じゃあ飯でも食いに行こうか」

カツラに任せたカガチが顎をしゃくるのにサスケがたちあがる。台所から顔をだしたカツラの声が背中にぶつかった。

「おじさん、何時にかえるの?」
「外で飯は食うから、めんどくさいなら帰っちまっていいよ。戸締りだけ頼む。今日もありがとな」
「はあい」
「飯代はあるかい」

財布をさぐるカガチにカツラはまだ大丈夫と答え、行ってらっしゃい、と笑った。 やけた赤錆の階段をおりる足音が響く。ポケットに手をつっこみ、あたりを伺う老犬のような歩き方をするカガチの襟元のあたりを大きく肥えた蠅が飛んでいる。麻のシャツの背中をはいまわった影が頭の上をさまよう。刈上げられた首の後ろを爪で掻いたカガチは、ひらひらと手をふって蠅をおいはらった。

「いい子だったろう。美人だ」

どちらかと言えば、カガチに懐いている印象がつよくて顔立ちはあまり気にとめていなかった。思い出してみれば目鼻立ちがはっきりしていて、大きな目が小動物のようでかわいらしい顔立ちをしていたようにもおもう。だが結局口にはださない。

返事をしないサスケにカガチは喉を鳴らして笑った。五十過ぎの風貌のわりに声だけをくと張りがあるせいで、若々しく聞こえる。先日、カガチから一方的に声をかけられたときは三十ごろかと思っていた。

「おまえさんは無口だな。なにか好き嫌いはあるかい」
「いや」
「ふうん、じゃあどうしようか。トンカツは好きかい。ここは豚をよく食うがね、煮込みだとか炒めものばっかりで、トンカツがうまいってのはあんまないんだ。あんたもここのは味付けが食いつけないだろう」

なんだっていい、というサスケの気配を察したのだろう、カガチはスラックスに手をつっこむとサンダルをひきずるようにして歩き出した。昼を過ぎても人のとだえぬバラックがならんだ市場の品揃えはまったく違う。行きかう人の足を止めようとながされるテープの声や、勘定を告げる声、魚はいつも自分が食べるものより色が鮮やかであったりするし、野菜の類も見知らぬものや一見して亜熱帯にしかなさそうな果物、豚の顔が軒下に吊り下げられているのには驚いた。

カガチがサスケをつれていったのは市場の中ほど、正面は精肉店で奥まった場所にある階段の手前に古びた看板がおかれているだけの店だ。人が一人とおるのがやっとの狭く段差も急な階段をのぼって二階に入れば、冷房のかわいた空気が足元のあたりにながれこみ、汗ばんだ肌をわずかに冷やした。

引き戸をひらけば鳴った鈴におくから割烹着をきた中年の女性が顔をだす。カガチの顔をみると、いらっしゃいと愛想よくいい、すぐにメニューを脇にかかえて座敷まで案内をしてくれた。六畳ほどの板敷きに花茣蓙が並べられ、窓には簾が下げられている。

先付けの小鉢にはあられとピーナッツが入っている。ビールと昼の定食、といったカガチはメニューのかいてあるプラスチックのプレートをサスケのほうに押し付ける。同じもので、といったサスケに伝票をやぶった女性はすぐ奥へとひっこんでいった。

すぐに栓のあいたビンビールが並ぶのに、カガチがグラスを二つ、と追加しようとする。いらない、と突っぱねれば片方の眉をつりあげてカガチは笑った。ビールを飲み干し無精ひげと泡のついた唇をぬぐってカツラはなあ、とカガチは呟いた。

「あいつの母親の、兄っていうのがどうにもなんねえ奴でね、大戦で片足なくしちまった忍び崩れでお国から金をもらってたんだが、その手当ても雀の涙みたいなもんだ。そんで飲む打つ買うだから手がつけられない、妹が働いてもおっつかっつだってのに借金をつくる。その母親が五年前にしんじまってよ、あの年でけっこう苦労してるんだ。そんで俺がもってる店に稼ぎに来たんだ」

去年結石をやってね、これがちっこいんだがまあ死ぬほど痛い、とカガチはビールに手酌で注いでグラスを揺らした。

「失神できるぐらいの痛みで、立ってなんかいられないんだ。いやな汗がほんとに出る。でもたまにその痛みがしぃんと引くんだな。そうすると頭がいやに冴える」

こめかみを親指で叩いてカガチは爬虫類めいた酷薄さをみせる薄い唇をめくりあげるようにして笑った。目元と口元に皺がよりまるで数十年を経た老いの翳りをのぞかせた。

「夜中だったかな、家にひとりっきりで物音一つなくってね、そのときなんていえばいいんだろうな、やけに寂しくてねえ、俺も年をとったと思ったんだよ。俺はこんなんだからね、見てのとおり女房も子供もいやしねえ、死ぬときもこんな静かなのかって、そう思うとちきしょうってとんでもなくやりきれないなあって思ってな。カツラを拾ったのもそういうもんだよ」

ちょいとしゃべりすぎたか、とはにかみを滲ませたカガチは残っていたビールをグラスにすべてあけた。

「なんでそんなことを話す」

問えば、口のなかに含んだビールをしばらく転がしたカガチは年をとると話がまわりくどくていけない、と肩をすくめくたびれたシャツの裾をいじくりだす。

「俺はねえ、類は友を呼ぶってのは的をえた言葉だってのが持論でね、金もそうだろう。金は金があるとこにしか集まらない。人間もそうだ」

そういやそうな顔をするなよ、と下から覗き込むようにしてカガチは笑った。

「いい人間のまわりにはたいがいいい奴があつまるし、寂しい人間にはなんでか寂しい奴しかあつまらない。不思議な話だがね。なんでかどいつもこいつも俺の周りの奴は貧しい顔した奴ばっかでね、そうじゃなかった奴も商売に失敗して女房に逃げられるの、子供が人を殺したの、治らない病気になるだのそんな話ばっかりでね、俺は俺で死に水とってくれそうな奴ひとりいやしない。ろくでもない奴ばっかりだ」

それが縁って奴なのかね、と呟いたカガチはサスケを見た。琥珀色の眼は虹彩が澄んでかすかに潤み、ずいぶんと優しげな面差しに見えることに戸惑った。

「そんで、あんたの目的はなんだ」
「厳しいねえ。あんた、うちはイタチの行方を知りたいんだろう」
「必要ない」

予想にたがわぬ言葉にサスケが鼻で笑えば、カガチはきろりと眼を動かして、うすい唇の片方をつりあげた。今は、必要ないってだけだろう、と返す。

「何のかんの言っていざってときに役に立つのは人の縁だよ。木の葉はまあやり口が古いとこだし、うちは本家の人間は知らんだろうがね、浮き草のことは音の里でおそわんなかったかい。浮き草ってのはねえ、風にもひっくりかえる、ひっくりかえりゃ沈むもんだ。沈まないようにするには風を見るしかないんだ。浮き草に敵も味方もないんだよ。風向きを知りたきゃ浮き草に尋ねろとは、あの怖いお師さんはいわなかったかね」

肘をついたまま見あげたカガチはサスケが一言も反駁をせず眼を細めて考え込む様子に、にやにやと笑う。

「なあ、抜けたくせにまた戻って、こんなとこにおん出されてあんたは一体どうしたいんだい?あんたがやったことと言えば、なんだい?」

なんもないだろう、と囁く。答えないサスケに低い笑いをいきなりはじけさせたカガチは、思いのほか強い力でサスケの背中を叩いた。

「困ったこと訊きたいことがあったらオレの名前を出すといい。顔がきくあたりには協力させるようにもさせてもらいますよ」
「見返りは」
「出世払いって奴だ。人の縁がほしいんですよ、おれもね。俺の顔がきく店にもよくいっておきますよ。ここにもいつでも来るといい」

ご連絡はいつでもお待ちしてますから、と右手を差し出される。一瞥したサスケが手をもちあげると、攫うようにサスケの手を両手で掴んだカガチは勝利の優越に黄ばんだ歯をのぞかせてわらう。執拗にサスケの手をつかむのは武器を使いなじんだ肉刺の硬い感触のある手のひらだった。

「近いうちにアンタの上司、あの片目の旦那にも挨拶をさせて頂きますんで、よろしく」

あんたの御用はこれじゃないのかい、と見透かしたカガチは笑った。簾越しにさしこんだ斜めの光が瞼の窪みや顎の稜線を暗くし、陰鬱なぬめりが眼球の上にはりついている。

座敷の障子があけられて夏の日差しが廊下に照ってわずかに射しこむ。定食の盆をふたつかかえた女将がお待ちどうさま、と笑顔を出した。










「P.S. I love you.」/TEAM7










P.S. I love you.8へ
P.S. I love you.10へ








back