ガンガン、と鉄製の階段を二段飛ばしでかけあがる音がするのに、アパートの廊下をすすんでいたサスケは肩越しに振り返る。 サスケ、と名前を呼ばれた瞬間手首をつかまれてひきよせられた。 息が出来なくて苦しい。 心臓が焦げつきそうなぐらいうるさくて名前を呼ぶ声も聞こえない。うるせえよ、黙れよ、聞きたくない。耳を覆っていた手を引きはがされ今度こそ逃げられない。 震えているくせに躊躇いはなく力だけは強くて、手首をとらえた手が振り払えない。 触れる指から体温がショートカットであっというまに胸の真ん中にきて、たまらない。 もうだめだ、と思う。 「なんでおまえ、いんの」 理由なんてない。だから言えない 「いいの?」 主語も目的語もないだけまっすぐな要求をまた否定しそこねる。 部屋におしこまれた。 うつむいても我が物顔で頭をひきよせられる。骨がごつごつあたるし、怪我にも当たって痛い。黙ったままのサスケの首筋にぐりぐりナルトが頭をおしつける。 うそみてえだ、と背中におとされた声のぞっとするような甘さにサスケは逃げだしたくなった。足が震えるなんて戦場以外で許せるものではないが現実だ。おきまりのように増長している。だが増長を否定することが出来ない。ただ会いたかった。 羽交い絞めにされる格好だから背中越しにナルトの鼓動がサスケの心臓をその奥のもっとやわらかい場所をノックする。何度も何度も止まるなんて考えられないほどの強さと速さで叩いて、サスケの体温もひきずられてあがっていく。 「なあ、なんかいわねえとほんと、ほんとの本気にすんぞ」 抱きしめる腕の必死さと首筋に落ちる唇のあんまりの恭しさに逃げだしたくなるのを堪える。 似合わないことをと思いながら、ますます鼓動があがっていくのはなぜだろう。おしあてられる徴しにまた心臓が跳ねあがり、きつくサスケは目を閉じる。 ちきしょう、ともつれるようにはき捨て額をドアにおしつけたサスケの従順な首筋にナルトは鼻面を埋めた。おもいきりサスケのにおいを吸いこむ。 「なんだよ、おまえ」 ふててんのかよ、とナルトが笑い声をおとしたのと同じく、繰り出された肘鉄に眉を顰める。 「……ってぇ…」 うめくような声に肩越しに振り返ったサスケの眼に、わき腹を押さえてよりかかってくるナルトの頭が映る。 おい?と呼びかける。 「……サクラちゃんに蹴られた」 「なにしたんだ、おまえ」 「俺だけじゃねえよ、おまえの分もまとめて」 サクラちゃん、おまえにはやっぱ甘いんだよな、とナルトはちょっと笑う。 「あとでアイスでも買ってさ、謝りに行こうぜ」 「なにやって怒らせたんだ。おまえ」 「すんげー心配かけたみたい。サスケもだってばよ」 「……」 めっちゃ怒られた、といわれてサスケはフンと鼻を鳴らす。うわ、おまえムカツク奴だな、とナルトが顔をしかめた。 一分だけ、とナルトが呟く。嘘みてえだからさ、と笑みくずれたナルトの眼にサスケはちきしょう、と心中で罵り倒し包帯がまかれた腕で首根っこをひきよせる。加速度をつけて倒れこみ、おたがい痛いと顔をしかめて額をこすらせる。それから目をとじて一分。 ガンガンと蹴られたドアに大慌てではなれた二人は唇をぬぐいながら息をととのえる。ドアの鍵を開けるとずいぶん懐かしい顔だ。 「よ、おまえら」 |
「デイジー」/ナルトサスケ |
語源はday's eye=太陽の眼だそうです。 |